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<検証地域農業>稲作再興を阻む風評

そうま農協のカントリーエレベーターに貯蔵された飼料米。原発事故後、取り扱いが急増している=南相馬市鹿島区

 農業再生を探る議論は堂々巡りを繰り返す。「どうしよう」。自問の先の答えが見つからない。
 福島県南相馬市小高区のコメ農家でつくる上浦生産組合。「最後はみんな黙ってしまうんだ」。志賀隆義組合長(62)の表情はさえない。

◎震災5年へ(下)原発影響いまだ色濃く

<地場産を敬遠>
 小高区は東京電力福島第1原発事故による住民避難が続く。地域は今春にも避難指示の解除が見込まれ、営農再開が視野に入る。だが、農地活用の妙案が見つからない。
 30ヘクタールを4人のメンバーで守ってきた。うち2人は市外への転出が決まっている。志賀組合長も生まれ育った小高区を離れ、市内の避難区域外に新居を構えた。帰る家はもう故郷にない。
 かつて小高区では900戸が稲作を営んでいた。帰還意欲を示す住民は一部にとどまり、多くを高齢者が占める。農の担い手が戻る保証はない。「今の米価では人も雇えない。八方ふさがりだ」。志賀組合長が深いため息をついた。
 避難区域を除き、南相馬では昨年からコメづくりが本格再開している。ことしの作付け見込みは1800ヘクタール。昨年の2.5倍に拡大するとはいえ、原発事故前の半分に届かない。
 昨年産米から基準を超える放射性物質は検出されていない。相場も隣県産と遜色ない水準に回復している。それでも農家の生産意欲は簡単には高まらない。理由の一つが「風評」だ。
 「子や孫さえ地場産を敬遠する」。市内には今もこんな悲嘆の声があふれる。足元からの逆風が、食卓を支えてきたプライドを傷つける。
 南相馬市原町区の高田光定さん(63)は今春、仲間と20ヘクタールで作付けする。ほぼ全量を飼料用に振り向けるという。

<花作りに活路>
 かつては有機栽培に取り組み、豊かな食味は近所でも評判だった。「喜んでもらえないのを植えても仕方ないしね」。高田さんが悔しさをにじませた。
 地元の支持がなければ農産物の市場開拓はおぼつかない。そうま農協(南相馬市)の幹部は「避難の実体験を伴うだけに、住民の不安解消は難しい」と嘆く。
 原発事故の影を引きずる福島の農業。食用に見切りをつけ、商品作物に活路を求める動きも加速する。
 県は2013年度、広野、浪江など5町村で花の実証栽培に着手した。観賞用のトルコキキョウなどの産地化を目指している。
 広野町の池田政明さん(66)は、従来の野菜作りに加え、花の栽培を拡大する生産者の一人。これまで手掛けた花は市場で高評価を得ている。「今はご祝儀相場。勝負はこれからだ」と意気込む。
 県農林地再生対策室は「風評に左右されにくいのが花の利点。技術員を配置するなどして栽培を後押ししたい」と今後を見据える。
(斎藤秀之、桐生薫子)


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2016年02月16日火曜日

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