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<石巻長面浦叙景>大切にする姿 次世代へ

大きな窓から長面浦が一望できる「はまなすカフェ」

◎潟の震災史(5完)古里

<日曜営業カフェ>
 大きな窓から、穏やかな長面浦が一望できる。木製の机に季節の料理が並び、かつての住民たちがおしゃべりを楽しむ。
 東日本大震災で被災した宮城県石巻市の長面地区に昨年4月にオープンした「はまなすカフェ」。隣接する尾崎地区の漁師の妻ら約10人が日曜だけ営業する。周辺は災害危険区域に指定され、居住者はいない。
 客の半数は内陸部の仮設住宅などで離れ離れに暮らす住民だ。長面浦産のカキ料理やコーヒーを味わい、近況を語り合う。
 カフェは震災後の長面にできた数少ない建築物の「番屋」を利用した。代表の浜畑千代子さん(57)は「古里を訪れた住民が気軽に憩える場所をつくりたかった」と語る。
 浜畑さんは尾崎に生まれ、長面浦の恵みを感じて暮らしてきた。震災後、近隣の数世帯で尾崎の高台への移転を検討したが、インフラ整備や両親の通院などを考えて断念。内陸部の集団移転地に移る。

<「伝えたい」思い>
 津波で以前の町並みや水田、松林のあった風景は失われた。でも、古里は簡単に捨て切れない。「生まれた場所が一番いい。住めるならば住みたい」
 今でも秋の長面浦は山の紅葉が美しい。魚が豊富で釣りができる。さまざまな野鳥もいる。女性たちは冬季はカキむきで毎日早朝から働く。体力的に厳しいが、それでも店を開ける。
 「せっかくいい所なのに誰にも見てもらえないのはさみしい。足を運んでくれる人に、ここにまちがあったことを伝えたい」
 東北大大学院教育学研究科の李仁子准教授(文化人類学)は震災後の2011年から長面、尾崎の両地区に通い、住民への聞き取りや行事の映像記録化に取り組む。
 研究してきた在日韓国人や国際結婚した女性たちの「故郷を離れて暮らす生き方」というテーマが、住民の姿に重なった。
 「皆さんが伝統のある寺社の祭りを震災後も続けていることに感心した。それは故郷を後にした人にはとても大事なことだ」

<意識せずに実践>
 李さんは20年にわたる研究からそう指摘する。祖先や過去の習性など従来の価値観を大切にする移住者の方が、新しい場所で根を張って暮らせるという。
 「以前の価値観を切り捨てると、故郷をいとしく思う気持ちが窒息する。調査でも、ルーツと関係を絶った人は新たな場所でなじめず、後悔するケースが多かった」
 過去と現在。両方を大切にすることが、移住の辛苦を乗り越える力となる。
 意識せずそれを実践する両地区の住民にとっても、祭りやカフェは高齢化で維持が難しくなる。「時間がたてば今の形は保てないだろう。でも、古里を大切にする姿は次代に伝わる」
 津波をかぶっても白い花を咲かせたハマナスのように、思いはきっと実を結ぶ。(石巻総局・高橋公彦)


2016年02月19日金曜日

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