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<検証学びや>心の傷 生き抜く力に

被災者に聞き取りした結果を発表する向洋中の生徒たち=1月27日、宮城県七ケ浜町

◎震災5年へ(下)防災教育の試行錯誤

 生き抜く力をどう身に付けるか。東日本大震災の被災地では、子どもと教師が試行錯誤を重ねている。
 宮城県七ケ浜町向洋中の1年生94人は、昨年9月から震災を見つめ直す総合学習に臨んでいる。自身の震災体験を振り返って作文につづり、船や店を流された町内の漁業者や商店主らを訪ねて話に耳を傾けた。
 青果店の聞き取りを担当した阿部杏珠さん(13)は、取る物も取りあえず客と一緒に津波から逃げ、生と死の分かれ目を実感した女性店主の話に衝撃を受けた。町内では94人が犠牲になり、阿部さん自身も肉親を亡くした。
 「あらためて命の重さを学んだ。津波の恐ろしさも分かった。震災を伝えていきたい気持ちが強くなった」。1月にあった聞き取り結果の発表会で阿部さんは発言をそう締めくくった。
 「震災を思い出したくない」「悲しいだけ」。当初そう感想を記していた生徒たちが「つらいのは自分だけでない」と気付き、震災をより身近に感じ取っていく。指導した瀬成田実教諭は変化に目を見張った。

<共に向き合う>
 「互いの思いを共有することが必要。共に震災と向き合い、乗り越えることで生きる力や命の大切さを学ぶことができた」と瀬成田教諭は手応えを語る。
 多くの子どもが家や思い出の場所を失い、肉親や友人を亡くして心に傷を負った大震災。授業などで正面から向き合うことに慎重な学校は少なくない。
 宮城県内陸部の学校は被災した生徒の転入を機に、全校で沿岸部に出向く支援活動を見合わせた。「つらい経験を思い返させることになる」との理由だった。
 数見隆生東北福祉大教授(学校保健学)は「被災状況や年齢などに留意が必要」としながらも「精神科医は震災に触れるなと言うが、自身で乗り越えることも重要。町の将来を共に考えるといった実践の意義は大きい」と説明する。

<古里見つめる>
 厳しい状況を学びの力に変える試みも始まった。
 郷土愛を育み、復興を担う人材の育成に主眼を置く「復興教育」に取り組む岩手県。大槌町が本年度から小中を一体化した大槌、吉里吉里の2学園で本格的に始めた「ふるさと科」は代表例だ。
 子どもたちは郷土食の新巻きザケ作りに挑戦し、地域に伝わる虎舞や鹿子踊りに触れた。仮設商店街で職場体験もした。講師らと学校との調整は住民が担う。
 町は昨年の国勢調査速報値で人口減少率が県内最大。古里を見つめ直し、地域で奮闘する大人たちに触れることで、町と自らの将来を深く考える狙いがある。
 成果も表れ始めている。中学3年に当たる大槌学園9年生は語り部として町の現状や将来像を全国に発信した。「町を離れる人も残る人もそれぞれに大槌を思い復興に携わっていく」。決意表明もあった。
 伊藤正治教育長は「古里に誇りを持ち、厳しい現状に負けず未来を創り出す人材が求められている。震災は逆境だがうまく利用し、子どもたちに生きる力を身に付けさせたい」と話す。
(田柳暁、東野滋)


2016年02月21日日曜日

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