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<巣立ち>震災乗り越え 世界へこぎだす

大学入学を前に練習場所の真野川でカヌーをこぐ海斗さん
同級生とともに石巻商高の卒業式に出席した海斗さん(中央)

 丈の短くなった学生服に身を包み、背筋を伸ばして前を見つめる。
 宮城県石巻市の石巻商高で1日にあった卒業式。3年の佐藤海斗さん(18)は人生の針路を定めた3年間に思いをはせた。
 昨秋に和歌山県で開催された国体のカヌー少年男子カヤックシングル200メートルと500メートルで優勝。カヌーの強豪、大正大(東京)に進学する。世界大会や五輪への出場を目指し、生まれ育った古里を後にする。
 「2月に大学の合宿に参加し、先輩との力の差を痛感した。23歳以下の日本代表もいる。早く、厳しい環境の中で成長したい」
 東日本大震災の津波により、同市北上町十三浜の白浜地区にあった自宅が流失し、建設会社勤務の父一栄(かずよし)さん=当時(37)=を亡くした。消防団員で、自宅近くの水門を閉じようとして波にのまれたという。
 海斗さんは当時、北上中の1年生。高台にある中学校体育館にいて津波は見ていない。「父が流されたと告げる言葉も、目の当たりにしたがれきと化した町並みも信じられなかった」
 名前に付いた「海」は一栄さんの希望だった。マリンスポーツが得意で、夏は自宅前の海で釣りや海水浴を一緒に楽しんだ。お互い口べたであまり話さなかったが「家族思いの自慢の父だった」。
 震災後しばらく、父を奪った海へのわだかまりが消えなかった。「海が悪いわけではない」。そう自分に言い聞かせた。父が好きだった海を嫌いにはなれなかった。
 海斗さんは身長185センチ、体重85キロ。恵まれた体格は、身長180センチ近かった一栄さんゆずり。小中学校は野球部で投手だったが、高校では個人の力で勝負したいとカヌーを選んだ。
 「幼いころから、北上町の自然に触れてきた。それがカヌーという選択肢を引き寄せたと思う。両親にもらったこの体で、世界に挑戦したい」
 高校入学後、カヌーに乗れるまで1カ月かかった。大会の上位は小中からの経験者で、なかなか決勝に残れなかった。3年の県高校総体でもライバルに敗れ、苦杯をなめた。国体2冠は高校最後の大会でつかんだ栄冠だ。
 「カヌーに出会って人生が変わった。楽しさを教えてくれた先生やコーチに感謝している。将来は石巻に戻って指導者になりたい。それまでは世界の舞台で活躍できるよう、みんなを喜ばせられるよう頑張る」
 被災地から若者が、新たな舞台にこぎだす。(石巻総局・高橋公彦)


2016年03月02日水曜日

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