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<適少社会>感謝の心 紡いで届ける

ワタリスのカフェに集まったスタッフと引地さん(左から2人目)。出来上がる「FUGURO」に笑顔が広がる=宮城県亘理町

◎人口減 復興のかたち[14]第3部なりわい創出(3)手しごと再生

 端切れが、両手のひらほどの巾着袋に生まれ変わる。東日本大震災から半年ほど後に訪ねた宮城県亘理町の農家。おばあさんの手仕事が、引地恵さん(48)の目に留まった。
 「ふぐろ」。手渡してお礼の気持ちを伝えるため、縫いためておくという。柔和な笑顔で教えてくれた。中身がコメ一粒でも縫い目に入らないようにと、裏地を施す。口は両引きのひもでしっかり締まる。隠れた心配りが胸にじんときた。
 ありがとうの気持ちを持ち続ける。「感謝が次の感謝につながる幸せの循環の中で暮らしている」。生まれ育った亘理に、自分が気付かなかった幸せを生むすべがあった。生き方を見直そう。たそがれ色だった古里が輝いた。

 「感謝を形にしてお守りのように人から人へ手渡ししたい」。着物地を再利用した商品作りを手掛ける「WATALIS(ワタリス)」。引地さんが古里で起業したのは、そんな思いからだ。町の名と、英語でお守りを意味する「タリスマン」を掛け合わせた。
 妹と高校時代の友人の3人で2011年10月に始めた。13年4月に一般社団法人を設立。15年5月には製造販売部門を株式会社にした。作り手は約20人。地元の30〜40代の主婦が中心だ。
 かつて養蚕が盛んだった町で女性は1970年代前半まで、普段使いのもんぺや子どもの着物、防寒着の「どんぶく」を手作りした。町郷土資料館の学芸員だったころに聞き知った。
 幸せを願う柄をちりばめた着物は嫁入り道具。今では、しつけ糸も取らないまま、多くがたんすに眠る。
 「ふぐろ」を現代風にアレンジした巾着袋「FUGURO」やカードケースに作り替える。アクセサリーや小物に余すことなく生かす。「あずき三粒包める布は捨てるな」。地元の古老の言い伝えが生きる。

 震災で町の住民306人が犠牲になり、転出も相次ぐ。15年国勢調査の人口は3万3598。前回10年より3.6%減った。
 女性が地元で働く環境は依然厳しい。子育てや介護も抱え、作り手たちは互いに補い働く。武者千雅さん(39)は津波で自宅を失った。内陸に移住しワタリスの工房近くの小学校に息子2人が通う。「家のローンがあり家計を助けたい。子どものそばなら安心して働ける」。内職から始め、今はパートで事務を担う。
 ワタリスは現在、海外ブランドとのコラボレーションを進め、2月にはカフェを開店した。スタッフの月収は数万〜10万円弱。亘理山元商工会経営支援課長の伊藤康明さん(55)は「ここは女性の職種が限られる。ワタリスは可能性を広げてくれる」と期待する。
 「感謝の心、手仕事の技、再生文化は地域の宝。子どもたちに亘理で生きていこうと思ってほしい」と引地さん。着物リメークに、古里再生の思いを紡ぐ。


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2016年03月06日日曜日


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