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<適少社会>課題解決型産業に希望

 まつなが・けいこ 京都市生まれ。大阪市立大大学院経済学研究科後期博士課程単位取得退学。島根県立大准教授を経て現職。復興庁福島12市町村の将来像に関する有識者検討会委員。40歳。

 東日本大震災で被災地のなりわいは大きな打撃を受けた。人口減は一気に加速した。担い手不足と市場規模の縮小が、既存経営者の心を冷やす中、地域産業を再生し発展させるには、固定概念に縛られない新たな戦略が必要だ。被災地に生まれつつある起業の波を大きくしようと「ローカル・イノベーターズ・フォーラム2016」(ジャパン・ソサエティー、NPO法人エティック主催)が2月27日、東京で開かれた。最前線で地域資源の活用に挑むリーダーの意見を紹介する。

◎大阪市立大松永桂子准教授に聞く

 復興と人口減、二つの大きな課題に直面する被災地の産業は、未来への希望をどこに見いだせばいいのか。現場でのヒアリングを重んじる研究スタンスで、被災地に関する著作も多い大阪市立大大学院創造都市研究科の松永桂子准教授(地域産業論)に、課題解決のヒントを聞いた。

 東日本大震災の教訓に、逆境の中でも地域に居続けるのは、地場の企業か、地元出身者が地域貢献を意識して造ったUターン型の工場だったというのがある。
 企業立地自体が減っている。被災地の産業振興を従来型の企業誘致で図るのは難しい。短期間での撤退もあり得る。地域との縁が深く、地域の需要に応える産業、企業を長期的な視点で探し、育てるべきだ。
 突破口の一つはソーシャルビジネス(SB)にある。非営利のNPOとは違い、ビジネスを営みながら社会課題の解決を目指す。人材育成や教育支援を中心にSBの芽が高密度で被災地に出始めている。
 リーダーの多くは外から来ている。ボランティアで被災地に入り、復興のために事業を立ち上げた。その熱が地元に伝わりつつある。阪神・淡路大震災でNPOが普及したように、今回の震災でSBが日本に定着するかもしれない。感度のいい若者を被災地に引き込む動機付けにもなる。

 もう一つの突破口は被災地に根付くなりわいの中にある。農業、漁業と食に関わる手仕事や加工だ。
 水産加工には大きな可能性が潜在する。魚の消費量には大きな伸びしろがある。環太平洋連携協定(TPP)が動きだせば、海外から肉が大量に入る。国産の生鮮品にこだわる層に魚を売り込む大きなチャンスになる。
 人口は減っているが世帯は増えている。高齢者、1人暮らしが増えていく。湯煎で食べられる切り身のような水産加工品の需要はものすごくある。三陸の海は豊かで養殖も盛ん。工夫次第で需要開拓できる産業ではないか。

 豊かさの尺度、働き方が変わりつつある。1人でパソコン1台あればできるIT系、クリエーティブ系の職種がすごく増えている。週の半分はSB、あと半分はIT系とか農業、漁業あるいは公務員でもいい。柔軟な働き方ができる地域になれば、島根や徳島には先行例があるように、居住を選択する人は増える。
 震災では、顔の見える自営業の価値が再認識された。仮設商店は店主が再起する拠点であり、復興の象徴であり、コミュニティーをつなぐ場だった。柔軟な働き方は「新たな自営」につながる。地域づくりの新しい連鎖反応がそこに生まれるはずだ。
 被災地にあった助け合い、顔の見える関係は日本の良さの一つ。漁業、農業、SB、新たな自営、新旧住民がうまく結び付けば、日本の地域産業の在り方をめぐる未来のモデルが芽生えてくる。被災地はそうした人々を結び付ける場になりつつある。


関連ページ: 広域 社会 適少社会

2016年03月07日月曜日

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