岩手のニュース

<震災5年>亡母の和歌 鎮魂の曲に

旋律に乗せて祈りの言葉を響かせる僧侶たち
佐藤 慧さん

 盛岡市出身のフォトジャーナリスト佐藤慧さん(33)が8日夜、東日本大震災の犠牲者を追悼する仏教音楽のコンサートを岩手県陸前高田市で開いた。同市で犠牲になった母淳子さん=当時(54)=が残した和歌も披露され、会場は鎮魂の祈りに包まれた。
 僧侶8人が、教典に旋律を付けて唱える「聲明(しょうみょう)」9曲を披露。うち1曲は淳子さんの和歌に東京の作曲家がメロディーを付けた。会場には約150人が訪れ、手を合わせて聞く人もいた。

 <海霧に とけて我が身も ただよはむ 川面をのぼり 大地をつつみ>

 震災を予見したような歌で、佐藤さんは「体は借り物で、いつか自然に帰っていくという死生観を詠んだ母らしい歌」と思う。
 淳子さんは、夫で岩手県立高田病院副院長だった故敏通さんの赴任を契機に同市に移り住み、被災した。淳子さんが学んだ和歌の先生が葬儀でこの歌を紹介。被災した官舎で、この歌をつづったノートが見つかった。
 敏通さんは過労で体調を崩して11年夏に退職し、岩手県を離れた。「陸前高田に戻りたい」という願いを果たせぬまま2015年7月に61歳で亡くなった。
 「両親が愛した陸前高田で弔いの場を設けたい」。迷いはあったが、取材で出会った多くの人たちの力が後押しとなり、震災5年目直前で開催にこぎ着けた。
 「数字の区切りはあるが、前を向けるまでの時間は人それぞれ。その中に祈りは必要だ。悲しみの深さは愛情の裏返しだから、悲しみは大切にしたい」。そんなメッセージを伝えられたと、佐藤さんは最後に笑顔を見せた。


2016年03月10日木曜日

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