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<歌声あすへ響け>避難所で共感かき鳴らす

ステージで熱唱する門馬さん=1月30日午後1時30分ごろ、福島県川俣町の中央公民館

 東京電力福島第1原発事故で全町避難が続く福島県浪江町。地元出身のシンガー・ソングライターが歌うのは悲しみや絶望だけではない。かつての美しい風景、再生への願い、前に進む強さ。被災地の真ん中で、仲間のいる福島で、浪江のはるか遠くで。歌声は記憶をつなぎ、故郷のあすへと響いていく。(福島総局・高橋一樹)

◎原発避難 福島・浪江の歌手たち(上)門馬よし彦さん=福島市

●ツアー直前被災
 2011年4月のある夜。避難所となっていた体育館は騒然としていた。避難者が倒れ、救急車で病院に搬送されたらしい。
 門馬よし彦さん(36)は自分と同じように原発から逃れてきた人たちを歌で励まそうと会津若松市を訪れていた。「今はそれどころじゃない。帰ってくれ」。避難所の係員が言い放つ。
 引き返そうか。一瞬、そんな思いもよぎった。でも、歌を聴きたい人もいるかもしれない。外に出て、車のライトを頼りにギターをかき鳴らす。
 「なごり雪」「上を向いて歩こう」…。歌声に人が集まりだした。聴いた瞬間に号泣する人、表情を輝かせる人、一緒に口ずさむ人…。約60人がいた体育館は空っぽになった。「みな想像以上に歌が必要なんだ」。歌の力を実感した。
 浪江町請戸出身。15歳の頃からJRいわき駅前などで路上ライブをしていた。高校中退後に1度上京し、2年で地元に戻った。自らハンドルを握り、実家を拠点に県内外を駆け回って歌った。
 全国ツアーに出掛ける直前、震災が起きた。津波が自宅をのみ込み、原発事故が追い打ちをかけた。家族や親戚たちと避難所を転々とした。
 家は海から20歩の距離にあった。波の音、磯のにおい、吹き抜ける風…。愛着があった実家が無くなったショックは大きかった。

●1年半で60ヵ所
 震災から10日後、避難先の新潟県長岡市の体育館で歌を披露した。自分には家族もいる。もっとつらい人の力になりたいという気持ちが勝った。
 支援物資が集まるいわき市で食料や毛布を車に積み、避難所などを回って歌った。宮城や岩手にも通った。1年半で60カ所を回り、走行距離は20万キロを超えた。
 多くの被災者と言葉を交わし、心の内を通わせる。ふと、一つの思いが頭をよぎる。「全部夢だったらいいのになあ…」。あふれる感情は「願い」という曲になった。<どんなふうになろうとも ふるさとが大好きさ 生まれて育ったこのまちの 風が大好きさ>
 今は妻と福島市に自宅兼音楽事務所を構え、県内外で活動する。月1回、請戸に入り、人影が消えた古里で犠牲者に歌をささげる。
 「5年たっても復興は進まず、何とか希望をつないできた人も将来を見失っている。悩み、苦しむ人がいる限り、自分にしか歌えない歌を届けたい」。被災した歌い手として、被災者と向き合っていく覚悟だ。

「願い」
  夢であればいいと 毎日目をとじるよ
  いつもの穏やかな ふるさとを思い浮かべて
  だけど目にうつる現実は 変わり果てた姿で
  ため息しか出ないけれど 夢中になって歩いてる
  数えきれないほど 悲しみがある中で
  今少しずつ動きだしている たくさんの絆
                    (抜粋)


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2016年03月23日水曜日

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