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<みやぎ富県10年>技術開放 開発力磨く

ヒット商品のポケットガイガーとオランダ国立計量局の認証証明を手にする佐藤工場長(左)。右の社員が持つのはオクルパッド=石巻市のヤグチ電子工業

◎製造業の現場から(6完)活路

 1本のメールが2011年6月に届いた。東日本大震災から3カ月後だった。
 電子機器製造のヤグチ電子工業(宮城県石巻市)。佐藤雅俊取締役工場長は文面にくぎ付けになった。
 「ぜひ協力したい。オランダにサンプルを送ってほしい」。発信元はオランダ国立計量局。従業員25人程度の町工場には想像したこともない相手だった。

<震災で苦境>
 ヤグチ電子は震災で設備が壊れ、操業を10日間停止した。取引先の被災で倒産寸前に追い込まれた。
 技術チームは知恵を出し合い、起死回生の一手を発案する。原発事故で放射線への不安が増大する状況を踏まえた、手軽で安価な線量計の独自開発だった。
 だが、これまでは下請け中心で、試作品ができても作動状況を検査するすべがない。量産に向けた蓄えもゼロ。思い切って、設計図をネット公開して協力者を募った結果が、オランダからの申し出だった。
 「問題ありません」。送った試作品に太鼓判が押されると、今度は米ファンドが反応。量産資金150万円のネット調達が実現した。同年8月に販売にこぎ着けた「ポケットガイガー」1号機200台は、発売わずか30分で売り切れた。
 モデルチェンジを重ね累計販売5万台超のヒット商品は、設計情報を無償公開する「オープンソース」が奏功した。崖っぷちを切り抜けたヤグチ電子は、北里大と共同開発した子どもの弱視矯正装置「オクルパッド」の商品化も果たした。
 下請けから開発型への転換でさらなる成長を目指す佐藤工場長は「要素技術を公開し、幅広い知見を集める。自社だけで頑張らず、オープンであることを心掛けている」と話す。
 経営資源の積極的な開放により、人材やアイデアを引きつけ活路を開く。そこには、地域のものづくり文化を次代につなぐ先行投資の意味合いも含まれる。

<破格の投資>
 電源装置開発・製造の工藤電機(仙台市)はことし1月、研究開発センターを太白区に完成させた。鉄骨4階の建屋は最先端加速器やがん治療設備に使われる高性能電源の開発を担う。
 総工費は10億円。技術者中心の従業員30人規模の企業にとっては破格の投資だ。上階には4、5人が宿泊できるスペースやダイニングキッチンを完備し、寝泊まりしながらの開発作業も可能にした。
 「自分たちが使うだけでなく、全国の企業や大学から優秀な研究者が集い、共同開発が花開く拠点としたい」。東北大との産学連携で実績を重ねてきた工藤治夫会長は、東北の中小発の技術革新に燃えている。
 05年に就任した宮城県の村井嘉浩知事は、代名詞にもなった「富県戦略」を掲げ一貫して企業誘致を推進する。折橋伸哉東北学院大教授(経営管理論)は「広がった好機を生かすも殺すも地元次第。技術力と人材が欠かせない」と話す。
 地元のものづくり企業の自立と挑戦、それを受け止める土俵づくりが11年目に突入した「富県」の課題となる。(報道部・浅井哲朗)


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2016年03月25日金曜日


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