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<適少社会>市民の力で人材カバー

放課後児童クラブで遊ぶ子どもたちと支援員。子育て環境の再構築に被災自治体は工夫を凝らす=4月15日、南相馬市の上町児童センター

◎人口減 復興のかたち[37]第8部創生の虚実(2)子育ての壁

 「地方創生」は人口減少への危機感をばねに始まった。市町村は出生率向上へ子育て環境の改善を重視する。東日本大震災の被災地では、暮らしを取り巻く状況の激しい変化と深刻な人材不足が、壁となって立ちはだかる。
 1960年をピークに国勢調査での人口減が続く岩手県宮古市。17カ所ある認可保育所で4月、待機児童が10人ほど発生した。同市では異例の多さ。「震災前、待機児童はほとんどいなかったのに」。市子育て支援室の担当者は戸惑う。
 被災後、生計を確保するため共働きになった。三世代同居の家族が避難を経て世帯を分離した…。背景には震災に伴う生活環境の変化があると市は注視する。
 宮古公共職業安定所によると、管内4市町村の保育士の有効求人倍率は2月現在で3.13倍だった。保育士不足で定員通りに受け入れられない施設もあった。
 市は地方創生の地方版総合戦略に「保育士人材バンク」の設置を盛り込む。保育士資格を持つ市民を発掘して就労を促す仕組みだが、先進地調査など計画策定に時間が必要で、スタートは2年先になるという。

 「日本死ね」。過激な表現で保育環境の貧弱さを嘆くブログが発端となり、政府は3月末、緊急の待機児童対策を示した。保育所の定員を緩和し、既存施設での受け入れ児童数を増やす。今月にも保育士の賃上げ策をまとめる。
 東洋大の森田明美教授(児童福祉)は、賃上げは評価しつつも、定員緩和は「狭い施設に押し込む結果になる。国の基準以上の環境を整えてきた地方の努力が失われる」と懸念する。
 福島県浜通り地方は津波と東京電力福島第1原発事故で子育て人材の流出が、特に深刻化する。南相馬市にある相双公共職業安定所の管内12市町村では2月、保育士の有効求人倍率が6.20倍に達した。岩手、宮城、福島3県の安定所で最も倍率が高い。

 保育士が足りなくても、市民の力が地域にはある。福島県南相馬市の放課後児童クラブの支援員は従来、保育士や教諭の有資格者が大多数だった。今は欠員が出ると資格を持つ人の確保が厳しい。全14クラブの支援員33人のうち、10人は震災後に採用した資格を持たない市民だ。
 一方で、地域の子育て力の低下は避けなければならない。「市民支援員」の一人、上町児童クラブで働く原町区の松本敦子さん(57)は「発達障害の子と接し、ある程度の専門知識は必要だと思った。やっと分かってきた」と話す。学びの機会をつくろう。市は14〜15年度、独自の研修会を15回開いた。
 南相馬市の子ども対策を支援してきた新潟県立大の植木信一准教授(児童福祉)は「地域で子どもを育てる環境をつくる必要がある。著しい人材不足を市民の力で乗り越えたとき、被災地は全国モデルになれる」と期待する。


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2016年05月16日月曜日


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