山形のニュース

震災被災の夫婦 前に進むため故郷へ

米沢の里山での暮らしを楽しむ近野さん夫婦

 東日本大震災で宮城県石巻市の自宅を失った近野八郎さん(73)、トミさん(70)夫妻が、米沢市の里山で暮らしている。被災地で再出発を夢見たものの現実は厳しく、故郷を離れてからほぼ半世紀後のUターンだ。雄大な自然に囲まれた一軒家をついのすみかに、安らぎを見いだしている。
 「豊かな自然においしい水と空気。そして、温かい人々が魅力」。石巻市渡波地区の仮設住宅で1年半生活し、2012年9月に米沢に戻った近野夫妻は、自宅前に広がる森を見つめながら、そう口をそろえる。
 ともに無職の年金暮らし。蓄えの大半は、被災した自宅のローン返済と、米沢の空き家購入で消えた。
 八郎さんは米沢の高校を卒業後、親戚の会社に就職するため石巻に移住した。1968年にトミさんと結婚し、94年、念願のマイホームを海沿いに建てた。2人の息子を育て上げ、両目と心臓の大病を克服し、老後を夫婦で楽しんでいた時、大震災に見舞われた。
 「地獄の記憶は忘れたくても忘れられない。魂が抜けたように、仮設にいた時は無気力になりがちだった。世話人になりいろいろと動いたが、先が見えない生活に不安ばかりが募った」と振り返る八郎さん。「住み慣れた石巻を離れるのは逃げた気分で申し訳なかったが、耐えて暮らすより、前に進むため故郷に戻った」と語る。
 現在住む田沢地区の戸長里集落は、平均年齢80歳前後で10世帯ほどの過疎地。周辺には商店がなく便利さとは無縁だ。それでも2人は、毎日隣近所の人々とお茶飲みしたり、山菜採りに出かけたり、料理や手芸、園芸などで充実した時を過ごしている。
 八郎さんは言う。「ここに来て、自分を取り戻すことができた。年が年だし長くはないけど、元気に暮らせていることが幸せ」。その横で、トミさんは「生活は楽じゃないけど、一歩踏み出したおかげで心の安定を得た」と話す。


2016年05月26日木曜日


先頭に戻る