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<適少社会>自然活用火山熱で製塩

室温50度を超える製塩所の釜場。山田さんが釜の中で結晶化してきた塩を混ぜ続けていた。完成まではあと10日以上かかる

 日本で一番人口の少ない自治体、東京都青ケ島村は最も近い八丈島から71キロ離れた絶海の孤島だ。現在は1日1便のヘリコプターと週4便の船が八丈島との間を結ぶが、1972年までは月1便の船しかなく、海が荒れて数カ月、寄港が途絶えることが珍しくなかったという。無線電話が通じたのは56年。その年の参院選までは国政、都政の選挙に投票できなかった。江戸時代後期には噴火で八丈島に全島避難し、約40年後に帰還した歴史もある。人々は困難を越え、今も島に住み続ける。

 海に囲まれた人口159の青ケ島村で、自然の恵みは特産の「ひんぎゃの塩」に結晶する。青ケ島製塩事業所社長の山田アリサさん(54)は、主産業が乏しい島の起業のモデルにしようと励む。人口が少なくても、島を離れず暮らし続ける意味を説く。
 島を洗う黒潮を地熱蒸気の噴気孔「ひんぎゃ」の熱で1カ月、じっくり炊く。窯場は室温50度を超える。「目まいがするほどつらい」と山田さん。「島はとにかく人が足りない。あと1人、2人いたら楽なのにと、いつも思う」と言いながら汗をぬぐった。
 まろやかな味わいにファンが多い。製塩所は年中稼働する。雇用は島では賄えず、4人のうち1人は本土に募集を掛け呼び寄せた。
 主産業は公務員や公共事業という。「財政豊かな東京都だから成り立つ」と多くの住民は率直に語る。
 島の人口は1970年代からしばらく200前後で安定していた。2009年に190を割った後は漸減が続く。11〜15年の5年間で生まれた子どもは2人しかいない。現在、小学生は5人、中学生は8人。転入がなければ22年度、中学校は生徒が消え休校する。
 「島の将来に危機感のない人はいない。特に子どもの少なさを強く気にしている」と山田さんは話す。
 人口の3分の1は村職員や小中学校の教員ら公務員が占める。都が島で本年度予定する港湾などハード事業費は14億7200万円。村も当初予算に普通建設費2億5300万円を計上する。島には建設会社が2社あり、約40人が働く。
 一方、都の統計によると、13年の農業生産高は3258万円、漁獲高は1300万円にすぎない。
 島に新しい地場産業を確立できないか。山田さんは製塩に思いを込める。「火山の熱で造る塩は世界でここだけ。世界中が欲しがる超高級塩に育てる。塩で目立ち続ける。そうすれば仲間も島に集まってくる」
 目標があるから休日返上の重労働もこなせる。「人口減も同じ。目指すべき未来が見えれば安心だし、我慢できる。頑張れる」
 島の人間は口が悪く、気が荒い。うわさ話が大好きだ。時々息苦しくなる。その代わり、いざとなれば一瞬でまとまる絆がある、と山田さんは言う。
 「人口が少ないからこそ、できることがあるはず」
 極少の村も人口減には苦しむ。それでも、世代を重ねていく道を考える熱意がある。


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2016年06月15日水曜日


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