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<適少社会>医療介護連携 先進地に

佐渡総合病院の「さどひまわりネット」の端末と佐藤院長。「未来かなえネット」のモデルとなった(写真は一部加工しています)

◎人口減 復興のかたち[52]第11部答えの在りか(2)命を守る基盤

 東日本大震災で人口が減った被災地を命を守る先進地にしよう。岩手県気仙地域の大船渡、陸前高田、住田3市町の取り組みが、全国の地域医療、介護福祉関係者の関心を集めている。
 3市町が4月に始めた情報通信技術(ICT)を活用した医療・介護の地域連携システム「未来かなえネット」。同様のシステムは全国に200程度あるが、9割は住民登録率が10%に満たない。未来かなえネットは群を抜く。登録者は7月、わずか3カ月で地域住民約6万3500人の10%を超える見通しだ。
 被災地では人手不足が続く。システムを運用する官民組織「未来かなえ機構」(住田町)は医療、介護などの各機関が患者や利用者の情報を出し、共有することが課題克服に不可欠と考えた。モデルはないか。機構に加わる岩手県立大船渡病院の渕向透副院長(58)は2014年10月、新潟県佐渡市に渡った。「これだっ、これっ」。希望をかなえる原石を探し当てた興奮を抑え切れなかった。
 離島の佐渡市の人口は15年国勢調査で5万7262。この10年で1万減った。高齢化率は40%超。増加するニーズに対応する切り札は、ICTを生かした関係機関の連携強化を、より深化させることだった。

 システムの主流は電子カルテ方式。患者情報の発信は医師からの一方通行で、介護現場からは反映されない。電子カルテ自体、採用する医療機関は全国で20%にとどまる。導入コストの負担もある。結果、介護関係者にそっぽを向かれ、システムは開店休業状態が多い。参加機関が増えなければ住民の登録も伸びない。
 「介護、医療双方向のシステムでなければ使われなくなる」。佐渡総合病院院長で、佐渡地域医療連携推進協議会の佐藤賢治理事(55)は危機感を抱いた。着目したのはレセプト(診療報酬明細書)。病名、診察内容などが分かるレセプトは既存システムが使える。介護施設や調剤薬局でも扱い、取り組みやすい。
 全国初のレセプト方式システム「さどひまわりネット」は13年に稼働。佐藤理事の狙いは当たり、参加は介護、薬局を含め市全体の約60%に当たる75施設、住民登録率は25%に達した。
 未来かなえネットも双方向発信を掲げた。震災後、地域に27あった病院・診療所は20に減り、看護師らの有効求人倍率は1.48倍、介護サービスは1.69倍と慢性的な人手不足に陥る。不足を補うには、利用施設ごとに行う検査や調剤の重複を避ける効率化が鍵。情報共有は実現の絶対条件だ。

 住田町両向の公民館で10日夜、住民説明会があった。「被災地の医療・介護現場の負担を未来かなえネットは軽減する。支える人を支えよう」。機構の安部博事務局長(66)は参加した20人に呼び掛けた。
 佐渡市に先行する取り組みも模索する。救急車に端末を搭載し、搬送中に患者の病歴や体質のデータを確認し応急処置する。救命率向上につなげる試みは、16年度中の実現を目指す。
 陸前高田市の主婦高木タケコさん(71)は県立高田病院で未来かなえネットに登録申請した。昨夏、大船渡市で体調を崩し救急車で搬送された。「家から遠くても持病を知ってもらっていれば安心」と期待した。
 機構は16年度、住民登録率を佐渡市と並ぶ25%、歯科診療所も加えた機関は70%加入を目標にする。
 「大規模病院を造るのは難しい。でも、未来かなえネットなら地域全体を医療・介護モールにできる」
 気仙医師会の滝田有(たもつ)会長(55)は被災地の取り組みと実績を示すことが、人口減に直面する他の地域の命を守ることにもつながると信じる。


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2016年06月16日木曜日


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