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<よみがえりのまち>浄土思想 世界へ発信

「春の藤原まつり」にも多くの外国人観光客が足を運んだ=5月3日、岩手県平泉町の毛越寺

 岩手県平泉町の「平泉の文化遺産」が2011年、国連教育科学文化機関(ユネスコ)の世界遺産に登録されてから29日で5年となる。東北に100年の栄華を誇った奥州藤原氏が希求した浄土思想の集大成に、国内外から多くの人々が足を運ぶ。地域は世界遺産と共にどう歩むのか。現在の姿と将来像を探った。(一関支局・浅井哲朗)

◎平泉世界遺産5年(上)使命

<復元作業に全力>
 慈覚大師円仁が開いた岩手、宮城、山形の四つの寺を年ごとに巡る法要・四寺回廊。今月13日、平泉町の毛越寺本堂に150人が集まり、14年目の法要が厳かに営まれた。
 「平泉の文化遺産は価値観の交流拠点であり、浄土信仰という普遍的な思想を表す資産であるという二つの点で世界に認められた」
 町内の遺跡発掘調査に当たる平泉文化遺産センターの千葉信胤館長が記念講演し、世界遺産としての価値をこう説明した。
 戦乱の末に奥州を支配した藤原氏の初代清衡は11世紀末、東北の中心として平泉に本拠を築いた。中尊寺を建立し、以後3代にわたり浄土思想に基づく黄金文化を花開かせた。12世紀末、源頼朝の侵攻で藤原氏は滅亡。その500年後、松尾芭蕉がこの地で二つの名句を残した。
 ドラマチックな史実は多くの歴史ファンを引き付けてやまないが、そこには「海外の目」とのギャップも生じてきたという。
 千葉館長は「清衡公の生い立ちや義経伝説は海外の人に伝わりにくく、歴史遺産としての評価は得られていない。国際的には、考古学的遺跡のまちとして、文化財の厳格な保存と調査、地道な復元作業が求められている」と指摘する。
 構成資産の中では、それぞれ復元された毛越寺の大泉が池、観自在王院跡の舞鶴が池を含む、平安時代に造営された計四つの浄土庭園が確認されている。
 町はまだ復元されていない残る二つ、7割方の水を張れるようになった無量光院跡の池の完成と、中尊寺境内の「中尊寺大池」の調査に全力を注いでいく方針だ。

<外国人観光客増>
 世界遺産登録後、260万人まで増えた町の観光入り込み客数は現在、200万人前後を維持する。宿泊客は県内外のほかの地域に奪われているのが実情だが、青木幸保町長は「広域連携を深め、効果を共有することが重要だ」と冷静に受け止める。
 むしろ着目するのは、15年度に過去最高の2万1000人を記録した外国人観光客だ。町は増加はしばらく続くと予想し、低料金の宿泊施設や民泊環境の整備を急ぐ。来年春の開業に向けて着工した「道の駅平泉」も、重要な情報発信拠点にする考えだ。
 「人種を超え、訪れる人の中に平和を願う心を耕し、種をまく。平泉はそうした場所であり続けたい」。宗教家の立場からは、中尊寺仏教文化研究所の佐々木邦世所長(円乗院住職)が提言する。
 世界遺産が息づくまちは、浄土思想に触れる国際的な巡礼地として輝きを増している。

[平泉の文化遺産]平泉の文化遺産 登録名称は「平泉−仏国土(浄土)を表す建築・庭園および考古学的遺跡群」。構成資産はいずれも岩手県平泉町の中尊寺、毛越寺、観自在王院跡、無量光院跡、金鶏山の五つ。平安時代の質の高い浄土庭園が複数確認されたのは、京都のほかに平泉のみという。


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2016年06月28日火曜日


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