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<参院選かすむ政治>「自慢の豚」迫る荒波

畜産農家を取り巻く環境は厳しい。日本の食産業を支える現場は疲弊する一方だ=青森県鯵ケ沢町の長谷川自然牧場

◎生活の現場から/TPP 「国は農家見捨てた」

 「農家は国に見捨てられた。どう生きていけと言うの」
 青森県鯵ケ沢町で養豚に取り組む「長谷川自然牧場」専務の長谷川洋子さん(66)は、環太平洋連携協定(TPP)交渉が昨年10月に大筋合意したことを思い出すたび、気持ちが暗くなる。
 死守されるはずだったコメ、牛肉、豚肉など重要5品目の関税が段階的に引き下げられる。「大丈夫だ。どこが相手だろうとうちの豚は絶対に負けねぇんだから」。社長で夫の光司さん(68)が洋子さんの不安を拭おうとする。

 元々は葉タバコ農家だった。光司さんが重い農薬中毒を患ったのがきっかけで、1981年に畜産農家に転身。採卵用の鶏20羽から始めた。今では豚約1000匹、鶏約1200羽を飼う。
 化学飼料を使わない昔ながらの方法でやってきた。自家製の発酵飼料に野菜や残飯を混ぜ込んだ餌をやり、豚は通常より約4カ月長く育てる。良質な肉質の「熟成豚」と無添加の鶏卵は次第に全国の注目を集めた。自信がついたが、それでも不安は消えない。
 昨年から続く豚流行性下痢(PED)、飼料の高騰などの影響で、子豚を出荷してくれる繁殖農家2軒が廃業した。「生き物だから病気や事故もある。いつ、どうなるかは分からない」。予測がつかない豚肉の価格変動や餌用の食品の残りを県内から集めるトラックの燃料費も悩みの種だ。
 「農業は国に振り回されっぱなし。政府の何を信じればいいの」。地元農協が7年前に開いたTPPに関する説明会で痛感した。怒り、不安、悲しみ−。説明を聞いているうちに一気に感情が押し寄せ、吐き気に襲われた。

 青森県は豚の飼育数が全国9位(2014年度畜産統計)、農業産出額は260億円(同生産農業所得統計)でリンゴ、コメに次ぐ主要農産物だ。県の試算によると、TPP発効で県内の農産物生産額は最大46億3000万円減少、品目別では豚肉が21億3000万円と最大の減少になる。
 県は本年度、TPP対策関連費に71億円を充てたが、畜産部門のほとんどが酪農、肉牛分野。「自分たちではどうにもできない波に流されているのに助け舟はない」。それでも放り投げて他人任せにはできない。
 価格の安い海外産との競争が始まる。自分たちで考え、できることに全て挑戦する。市場開放をチャンスに変えられるかどうか。
 安全な食を提供し、家族と従業員を養えるだけのお金が残ればいい。ささやかな願いをかなえてくれる政治家はいないのか。「本当は政治に期待したいし、信じたい。だけど、国政はあまりにも遠すぎて頼りにできない」(青森総局・辻本まり)


2016年07月08日金曜日


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