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<参院選>「そのうち」に潜む危うさ

◎取締役編集局長 鈴木素雄

 与党圧勝の結果が出る中、東北の6選挙区は野党統一候補が5勝し際立った対照を見せた。被災地にはアベノミクスの余光が届いていない。先が見通せない環太平洋連携協定(TPP)や、全国に先駆けて超少子高齢社会に到達した東北に渦巻く将来不安が政権に反旗を翻したと言えよう。
 選挙期間中、候補者や各党の訴えを聞いていて、ある歌詞のフレーズが何度も脳裏をよぎった。♪ぜにのないやつぁ俺んとこへこい 俺もないけど心配すんな
 50代以上の方なら、そらで口ずさめるだろう。故青島幸男さんが作詞し、故植木等さんが歌った『だまって俺について来い』。東京五輪景気に沸く1964年にリリースされた。この年の実質経済成長率は11.2%。ゼロ成長に沈む近年とは雲泥の差だ。だからだろう、歌詞の結びはこうなる。♪そのうちなんとかなるだろう
 選挙戦で、一つだけ争点とならなかったテーマがある。消費税増税の再延期問題だ。選挙直前になって安倍晋三首相が2019年10月まで見送ると表明、野党も同調した。一方で各党の公約には医療、介護、子育て関連の充実策が数多く並んだ。財源はと言えば、景気回復による税収増や行政改革など心もとない。まさに♪そのうちなんとか、である。既に国と地方の借金残高は1千兆円。近い将来、消費税率20%超が必要という試算も出ているのに。
 植木さんが♪そのうちなんとか、と歌う2年前に主演した映画のタイトルは『ニッポン無責任時代』だった。平(たいら)均(ひとし)なるラテン系サラリーマンの出世物語。半世紀余を経て中間層は痩せ細り、「平均」から「下流」への階層移動が進む。
 参院選では経済政策と社会保障政策が二大争点だった。だがそれは「当面の」、やや厳しく言うなら「目先の」という留保が付いた論戦ではなかったか。末孫へのつけ回しという「真の争点」は巧妙に隠された。
 国柄を左右するテーマであっても、選挙対策として忌避しておく。憲法改正問題も同じ文脈で考えることができる。安倍首相は選挙戦で持論である改憲論を封印、安倍政権下での改憲反対を主張する野党との議論はかみ合わなかった。改憲論議が後景に退く中、「改憲勢力」が静かに伸長し、発議の可能性が高まった。
 「良識の府」を標(ひょう)榜(ぼう)し、本来は中長期的な課題について党派を超えて議論すべき参議院。投票率が振るわなかったのは国民との対話不足も一因だろう。政治に「魔法のつえ」などないからこそ、政治家には困難に立ち向かう意志が求められる。不愉快な事柄に対(たい)峙(じ)することを嫌い、安逸をむさぼる姿勢を「安楽への全体主義」と批判したのは日本思想史家の故藤田省三さんだった。


2016年07月11日月曜日


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