青森のニュース

<道しるべ探して>生産の現場 ずっと立つ

捕獲したマグロを船上で締める野呂さん(右)=青森県深浦町の岩崎漁港沖

◎とうほく共創 第2部誇り(中)海を耕す

 青森県深浦町の岩崎漁港から沖に出た。航跡の先に世界遺産白神山地が見える。
 定置網に入った魚影。にわかに活気づく船上。クロマグロに荒々しく木づちが振り下ろされた。
 「この作業をして熟成すると、うま味が増す。マグロの付加価値を高めるために洋上でできる最高の処理方法」と野呂英樹さん(31)が息を弾ませる。
 青森県職員だったが、2年前に転職した。地元の漁業会社「ホリエイ」と水産加工販売「あおもり海山」の営業部長。これが今の名刺だ。
 県職員時代も船上処理の利点を説いて回ったが、伝統の手法にこだわる漁師たちには受け入れてもらえなかった。「今の会社だけは、意義を理解してくれた」と振り返る。

 深浦のマグロは、県内トップの漁獲高にもかかわらず、価格で全国ブランド大間産の後じんを拝してきた。知名度と価格の向上という使命が、若き営業部長の双肩に託された。
 東京の百貨店では漁師に店頭販売をさせ、取引先の築地の魚屋には漁をさせる。マグロを1本丸ごとプレゼントする企画や家族向けの定置網漁体験も始めた。
 生産者と販売者と消費者と。トライアングルの真ん中で野呂さんは「通訳者」を標ぼうする。
 会社は昨年、加工・冷凍施設を建造。漁期が限られるマグロを安定した品質で通年出荷できる態勢が整った。
 「ひとまず6次産業化は成った。でも、現場が一番大事なことに変わりはない」と野呂さん。漁師と沖に乗り出す日々が続く。

 大船渡市三陸町吉浜(よしはま)では、若手漁師らが「吉浜元気組」を結成した。高級食材の「吉浜(きっぴん)アワビ」をはじめウニ、ホタテ、ワカメと海の恵みが、東日本大震災からの漁村再生を支える。
 だが「漁師が6次産業化に手を出したら卸や加工で食っている人たちの収入を奪ってしまう。それが幸せか」。
 元気組会長の千葉豪さん(33)が直言する。
 震災からのV字回復を目指し、加工や直販を一手に担って収益を上げようとも考えたが、最終的に事業化を見送った。
 「結局、生産を極めるのが漁師の本分だ」と千葉さんは思う。生産、加工、販売を近隣で分担する暮らしがいい。「コミュニティービジネス」の神髄は、昔から当たり前のようにして浜に息づいていた。
 元気組の面々は今、地元で子ども向け漁業体験に力を注いでいる。「小さい時に地域の誇りを見つけられれば、都会に出ても必ず帰ってくる」。千葉さんの確信だ。25歳で東京から戻った自分がそうだったように。


2016年07月18日月曜日


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