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<その先へ>被災地包む歌 届ける

女川町のコンサートで、情感を込めて歌う花子さん。「つらいことはたくさんあると思うけど、人間は希望の生き物だと信じています」と語り掛けた

◎歌手 大島花子さん=東京都

 歌心は親父(おやじ)譲り。
 宮城県女川町のまちなか交流館で7月18日、歌手の大島花子さん(42)が無料コンサートを開いた。
 幕開きは、青年のじれったい恋心を滑稽に描いた「明日があるさ」。言わずと知れた父、坂本九さんの名曲だ。温かく包み込むような歌声が、詰め掛けた約150人の心をつかむ。
 「上を向いて歩こう」、「見上げてごらん夜の星を」も歌い上げた。目を閉じて聞き入る人、涙が止まらない人。戦後の復興を象徴する歌詞と懐かしいメロディーが、優しいエールとなって会場に響いた。
 曲間。九さんが熱心だった手話を即席で観客に教え、7月7日に亡くなった永六輔さんとのエピソードを紹介。「生きていくって、さよならをするためにあるのかな。子どもの頃、ずっと思っていました」

 最愛の父との突然の別れも、穏やかに語り始めた。
 31年前の8月12日。小学6年の夏休みに、日航ジャンボ機墜落事故で父を失った。人前で泣かなかった。「感情のスイッチをオフにしないと、日々を生きていけなかった」と振り返る。
 「泣いていいのよ、花子ちゃん。そんなに強がらないで」。大人の紋切り型の見方に戸惑った。
 「悲しみは人の数だけある。人の思いを簡単に分かると思っちゃいけない」。教訓として胸に刻んだ。

 東日本大震災の後、被災地での音楽活動は30回近くになる。長男が生まれ、命の尊さをかみしめる時期と重なり、引き寄せられるように東北へ。「被災者の方々とお話しし、私も心が救われることがある」。グリーフケアを学び、共鳴の理由がすとんと腹に落ちた。
 津波で自宅を流された福島県新地町の荒和子さん(68)とはコンサートの際、新居に泊めてもらうほどの間柄。昨年10月、小ぶりなリンゴが入った手編みの籠を贈られ、5年間の数々の出会いに感謝を込めて新曲「ひめりんご」を作った。
 <言いたい時が来たら 話したらいい わかるだなんて思わない そばにいさせて>
 「疲れた時にじわっと染みる曲。心が落ち着く」と荒さん。「普段はとても普通の人だけど、歌う姿は神々しい。私たちの世代にとって、本当の歌い手」と再会を楽しみにする。
 白石市で飲食店「カフェミルトン」を営む三浦敦子さん(56)は、14年発表の初アルバム「柿の木坂」に衝撃を受け、ライブ出演を打診した。18日に4回目を企画する三浦さんは「さらっと歌って、自然に伝わる。何ともすごいDNA」と絶賛。震災前には縁がなかった各地で、交流の輪が広がる。
 「人生は喪失の連続だからこそ、今ある喜びを歌いたい」と花子さん。二つの「あの日」を忘れず、悲しみを抱き締め、被災地に音楽を手渡しで届け続ける。「一人ぽっち」じゃないよと。(瀬川元章)


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2016年08月13日土曜日


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