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<リオ五輪>伊調 天国の母にささげる4連覇

母トシさんの遺影を持って観客席から声援を送る春行さん(左)と千春さん
女子58キロ級で金メダルを獲得し、日の丸を掲げる伊調馨=リオデジャネイロ(共同)

 遺影の母は笑っていた。リオデジャネイロ五輪のレスリング女子58キロ級で、史上初の4連覇を果たした伊調馨は2014年11月、65歳だった最愛の母トシさんを亡くした。レスリングを続けることをずっと望んでいた人にささげた金メダル。「最後はやっぱりお母さんが助けてくれた」。表彰台に立った第一人者は、万感の思いを込めた。
 母がいない初めての五輪だった。アテネ、北京の銀メダリスト姉千春さん(34)と共に現地で観戦した父春行さん(65)の懐には、母の遺影があった。
 「試合なんだから負けるな、死んでも勝て」。強気な母のDNAを娘はしっかりと受け継いだ。
 母の突然の悲報に追い打ちを掛けるように、1週間後には祖母も他界。全日本選手権の直前で、周囲は「とても試合ができる状態ではない」と出場を危ぶんだ。それでも試合に向かい、対戦相手を圧倒し続けた。
 「母は根拠のないプレッシャーをかけてくる。自分はそれが嫌ではない。んじゃ勝つよ、みたいな」。重圧に打ち負けない前人未到の快挙の陰に、母なりの愛情表現があった。
 物心がつく前に始めたレスリング。30年近く続けられたのは母のおかげだと思っている。「(観戦で)東京に行ける、海外に行けると楽しみにしていた」。わくわくした表情を見せる理解者がいてくれたからこそ、黙々と競技に打ち込めた。
 試合会場では「父はちょろちょろと落ち着かない小心者。母はいつもどっしりと構えていた」と懐かしそうに振り返る。今でも時々、「話し掛けたり、質問したり、これまで以上に近くにいる」と感じる。
 マットに立つ前、母にそっと語り掛ける。
 「偉大なことをしようとしているんだよ、あなたの娘は」
 約束を守った女王は「四つ目の金メダル、喜んでくれるかな」と深いえくぼを見せた。(リオデジャネイロ・剣持雄治)


2016年08月18日木曜日


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