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七回忌前 恩人へ感謝 遺族が歯科医訪問

古町さん(左)から渡された娘の感想文を読み、笑顔を浮かべる上野さん夫妻
上野 公子さん

 東日本大震災で長女を亡くした陸前高田市の夫妻が、かつて娘が通った盛岡市の歯科クリニックを訪ねた。震災直後、院長から受け取った歯の治療記録が娘の身元確認につながった。震災から5年5カ月。夫妻は「気持ちが落ち着いてきた」と院長に感謝の気持ちを伝えた。(大船渡支局・坂井直人)
 夫妻は上野和雄さん(65)トモ子さん(60)。震災で陸前高田市臨時職員の長女公子(こうこ)さん=当時(26)=を亡くした。海に近いプール施設から市指定避難所の市民会館に避難し、津波に遭った。
 夫妻は19日、盛岡市の菜園矯正歯科クリニックの院長古町瑞郎さん(50)を訪問。「先生のおかげで娘が見つかり(自分たちで)火葬や葬儀ができました」と感謝した。
 2011年3月11日の震災後、和雄さんはほぼ毎日、陸前高田市や大船渡市などの安置所を回った。ノートに遺体の番号を記しながら捜したが、公子さんは見つからなかった。
 3月下旬、古町さんに頼んで公子さんの歯やエックス線の写真をもらった。カラーコピーして、顔写真と一緒に各安置所の警察官に渡した。
 4月15日午前、いつものように安置所を回っていると携帯電話が鳴った。
 「娘さんが見つかったかもしれません」。古町さんからだった。
 犠牲者の身元確認に当たっていた別の歯科医から聞いたという。番号は「米崎中372」だった。
 4月6日に対面していた。似ていると感じたが、顔はむくんでいた。身長は161センチとあり、公子さんより5センチも大きかった。
 DNA鑑定の結果、5月3日に遺体は公子さんと判明した。良かったと思う半面、生きている可能性が消え、がくぜんとした。
 当時のノートを手に、「恩人」の古町さんに経緯を報告した和雄さん。「もっと早くにと思っていたが、気持ちが整理できていなかった。七回忌を前に一区切り付けられて良かった」と語った。
 それでも複雑な思いは消えない。身元判明に時間がかかり、お骨になって受け取ったり、まだ家族が見つからなかったりする人もいるからだ。
 古町さんから思いがけないプレゼントを渡された。09年6月、クリニックで矯正治療を終えた公子さんが記した感想文だった。
 「勇気を出して一歩ふみ出してみて、良かった」
 中学生のころ、矯正治療を勧めても嫌がった公子さん。素直な思いに触れ、上野さん夫妻は笑った。娘の思い出が一つ増えた。

[東日本大震災の遺体の身元確認] 警察庁によると今年6月現在、岩手、宮城、福島3県で身元が確認された遺体は1万5751人。うち歯型による確認は全体の7.9%に当たる1249人。沿岸部の歯科医院が被災して記録が流失したり、誰が不明者か情報が不足したりして作業は難航した。


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2016年08月21日日曜日


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