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<道しるべ探して>回る水車 希望の苗育む

 「明るい未来のエネルギー」は幻想でしかなかった。原子力という夢から覚めた人々が、天からの恵みを「力」に新しい物語を紡ぎ始める。古いくびきから解き放たれた先にあるのは、どんな未来だろう。

◎とうほく共創 第3部恵み(1)よみがえる集落

 水は万年雪を頂く飯豊連峰から白川に集まり、麓の田畑を潤す。山形県飯豊町の松原集落にも用水路が縦横に走っていた。
 用水路沿いで昨年11月、大葉のハウス栽培が始まった。取り組んでいるのは地元のお年寄りたちだ。
 将来的には郷土料理のしそ巻きを作る専門業者やすし店に卸したい。見込む年間売り上げは3000万円。経費を差し引いても年収500万円で2、3人を雇用できる。
 「何より大葉は軽くて作業が楽。高齢者にぴったりの仕事だよ」。集落の地区保全協議会長山口義雄さん(76)は、数年のうちに飯豊版「葉っぱビジネス」に乗り出したいと考えた。

 小水力発電を研究する山形大東北創生研究所准教授村松真さん(59)の協力を取り付け、用水路に水車を設置。2キロワットの電力をハウスに送り、ヒーターで土を温める。集落発電で大葉を促成栽培する実証実験だ。
 村松さんは「売電する手もあるが、大葉を栽培して売れば、何倍、何十倍の利益が地元に落ちる」と試算した。「小水力発電は目的じゃない。地域を変える手段だ」と山口さんが呼応する。
 協議会は今春、集落の全63世帯に大葉の苗を配った。山口さんは「庭で育てていれば、おのずと関心が高まる」と言う。高齢化が進む集落に、ささやかな希望の苗が育っていた。

 松原集落の人々が思い描く夢を、一足早く実現した集落が岐阜県郡上(ぐじょう)市にある。福井と県境を接する100世帯270人の石徹白(いとしろ)集落が、やはり農業用水路で小水力発電を始めたのは2007年のことだった。
 電気代がかかるからと長く休眠していた農産物加工場が集落発電で再起動すると、特産のトウモロコシを使った商品製造が始まり、雇用が生まれた。
 石徹白の成功譚(たん)に学ぼうと全国から訪れる人たち相手に、女性陣がカフェでランチを提供する。都会から少しずつ若い世代が移住し、小さな子どもたちがあぜ道を駆け回る。集落もまた長い眠りから覚めた。
 14年には、ほぼ全世帯が出資して売電事業を行う農協を設立した。年間2000万円の収入を見込んで耕作放棄地の再生を目指す。
 東京から移住して小水力発電を仕掛けた平野彰秀さん(40)は「昔のように集落が一つにまとまるきっかけになった。石徹白は自治の心を取り戻すのかもしれない」と語る。
 平野さんたちが回したいのは、どうやら水車だけではないらしい。

大葉栽培のビニールハウスで集落発電の分電装置を操作する山口さん(手前)=山形県飯豊町

2016年08月26日金曜日


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