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<台風10号>濁流一気 施設襲う

高齢者が犠牲になった楽ん楽ん(左の建物)を後にする関係者=31日午後4時30分ごろ、岩手県岩泉町

 川の流れが一瞬にして濁流となり、尊い命を奪い去った。台風10号による深刻な被害が明らかになった31日、岩手県岩泉町乙茂の高齢者グループホーム「楽(ら)ん楽(ら)ん」で、入所者とみられる9人の遺体が見つかった。記録的な雨量が予想された中でも悲劇は防げなかった。「水があっという間に押し寄せた。判断が間違っていた」と爪痕をぼうぜんと見詰める施設関係者。入所者の遺族は「なぜ、こんなことに」とやるせなさを募らせた。
 「楽ん楽ん」に入所していた祖母(78)が犠牲となった同町小本の孫の少年(16)は午後2時すぎ、遺体と対面したという。
 「信じられない。本当に悲しい」。肩を震わせ、涙を流しながら、絞り出すように語った。
 ホームを運営する医療法人社団「緑川会」によると、入所者は70〜90代の男性2人と女性7人。いずれも要介護度1〜3だった。避難に介助が必要なのは4人で、うち2人は車椅子利用者だった。遺体は8人が施設の中、1人が施設のすぐ外で見つかった。
 報道陣の取材に応じた緑川会の佐藤弘明常務理事(53)は「私の判断ミスで、このような事態になってしまった。亡くなった入所者のご家族に対し本当に申し訳ありません」と述べた。
 佐藤常務理事は隣の介護老人保健施設「ふれんどりー岩泉」で台風に備えていた。8月30日午後5時半ごろに施設周辺が冠水。「そのときは入所者を避難させようと考えなかった。水位が急激に上がるとは想定していなかった」と涙ぐんだ。
 「楽ん楽ん」には女性所長(55)が1人で勤務。午後6時ごろ、施設内が濁流に襲われ、入所者がベッドごと水に浮き始めた。所長は男性1人を抱えて避難しようとしたが、男性は途中で力尽きたという。
 ホームから100メートルほど離れた場所に住む会社員藤田行輝さん(38)は「風雨が強くなり始め、2時間もたたないうちに川が氾濫した」と振り返る。
 自宅の1階が浸水し、家族5人と2階で一晩を過ごした。「40年近く住んでいるが、初めての経験。避難しなかった人が多かったように思う」と語った。
 岩泉町は乙茂地区に避難指示や勧告を出さなかった。40代無職女性は雨が強まった後、車で高台に避難した。自宅に被害はなかったが「早めに避難勧告が出て、防災無線放送や緊急速報メールがあれば、指定避難所に逃げることができた」と話した。


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2016年09月01日木曜日


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