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<台風10号>玄関壊れ水が一気に 所長証言

9人が犠牲になった「楽ん楽ん」の室内。所長は入所者を個室のベッドに誘導したが全員が息絶えた

 男女9人の遺体が見つかった岩手県岩泉町乙茂の高齢者グループホーム「楽(ら)ん楽(ら)ん」で、台風10号が接近した8月30日夜に1人で勤務していた佐々木千代子所長(55)の証言が2日、明らかになった。突然、平屋の天井近くまで押し寄せた濁流。必死に助けようとしたが、入所者は目の前でぐったりした。平穏だった施設の生活が暗転した。
 「楽ん楽ん」を運営する医療法人社団「緑川会」の佐藤弘明常務理事(53)が説明した。
 異変があったのは30日午後6時10分ごろ。「玄関の近くに水が上がってきた」。女性入所者が所長に伝えた。外は道路が冠水し、建物が浸水しそうだった。
 入所者を隣の介護老人保健施設「ふれんどりー岩泉」の2、3階に避難させようと内線電話をかけたが、通じない。携帯電話も圏外。危険を感じ9人全員を個室のベッド上に誘導した。
 浸水が始まった。怖くなったのか、男性1人が部屋から出てきた。高さ約45センチの畳みの小上がりに2人で上がった。数分後、「ドン」と大きな音がした。玄関が壊れ、濁流が一気に流れ込んできた。小上がりに立っても水は胸に迫ってきた。
 男性を柱につかまらせた。水を飲まないよう片手で男性の顔を上に向け、抱きかかえた。「頑張って」と励ました。
 時間は思い出せないが、小上がりの窓に明かりが見えた。ふれんどりーの3階ベランダから職員が懐中電灯で照らしていた。
 「おーい」「ここにいたよー」。2人で叫んだが、濁流のごう音にかき消された。間もなく、男性は力尽きたように目を閉じた。
 翌朝、施設関係者が「楽ん楽ん」に入り、入所者が個室やキッチンで亡くなっているのを発見した。所長は小上がりで、男性を抱きかかえていた。
 佐藤常務理事は「ショックで離れられなかったのだと思う。所長は何度も『利用者やご家族に申し訳ないことをした』と謝った。全ては私の判断が甘かった」と話した。


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2016年09月03日土曜日


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