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<台風10号>家が、人が、濁流に

行方不明者が出た安家地区。安家川の上流から大量の流木やがれきが押し寄せていた=2日午後3時

 川べりに、がれきだけが残る。ここにあった家は丸ごと流された。台風10号の豪雨に伴う道路の寸断で、孤立していた岩手県岩泉町の安家地区に2日、入った。一部で道路が復旧し、本格的な救助活動が始まった。濁流の猛威を示す無数の流木。家族の行方が分からなくなった人はただ、無事を祈った。

 「なぜ家に戻っても大丈夫だと思ったのか。後悔しかない」
 安家川の濁流にのみ込まれた自宅跡で、小上智成さん(45)はうなだれた。母の八重子さん(74)が家ごと流され、行方が分かっていない。
 自宅は川沿いの堤防上にあった。台風が接近した8月30日は昼ごろ、父の吉美さん(75)、八重子さんと共にすぐ近くの親戚方に避難した。
 「水位が低いうちに家の荷物を持ってこよう」。同日午後3時ごろ、智成さんと八重子さんは一緒に自宅に戻った。八重子さんは荷物をまとめ、智成さんは車を高台に移動させた。
 直後、智成さんは川が急激に増水するのを見た。八重子さんは親戚宅に戻ったと思い引き返したが、母の姿はなかった。急いで自宅に戻った。
 「助けて」。2階から叫ぶ八重子さんが見えた。家の周囲は猛烈な濁流。近づけなかった。目の前で家が流された。
 2日は消防がショベルカーで流木を払いのけ、懸命に捜したが見つからなかった。智成さんは「母はぼうこうがんを完治して元気になったばかりだった。早く見つけたい」と疲れ切った表情で話した。
 間一髪で難を逃れた人もいた。1人暮らしの三上クニさん(71)。川辺にある木造2階の自宅は30日夜、1階寝室部分がえぐり取られた。無数の流木が壁に突き刺さったままだ。
 三上さんが避難したのは、30日午後5時半ごろ。高台の知人宅に身を寄せた。窓をたたき付ける豪雨に身の危険を感じたという。
 「防災無線は風の音でほとんど聞こえなかった。もし、何も考えずそのまま寝ていたら私は死んでいた」
 町安家支所長の漆真下(うるしまっか)進さん(62)は30日午後4時ごろから、高齢の住民を避難させるため、集落と支所を車で往復した。
 最後の住民を支所に送ったのは午後6時ごろ。直後、車数台が重なるように支所の目の前に押し流されてきた。支所2棟のうち川沿いの建物は約1メートルほど浸水。避難者がいたもう1棟は坂の上にあり無事だった。
 安家地区は各地で道路が寸断され、いまだ234人が孤立している。漆真下さんは「あと少し遅かったら自分も流されていた。これほどの水害はなかった。全員の無事を祈るしかない」と語った。(盛岡総局・横山勲)


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2016年09月03日土曜日


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