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<最少の海 庄内浜>水産加工、流通に本腰

少量ながら約130種類の魚介が揚がる庄内浜。未開拓だった加工や流通に新風が吹き始めている=鶴岡市の庄内観光物産館ふるさと本舗

◎全国豊かな海づくり大会を前に(下)変革

 水産業の後進地が「フロンティア」となる兆しが見えてきた。
 新潟県三条市の水産加工業「飛鳥フーズ」は11月、酒田市の工業団地に進出する。酒田港に揚がるスルメイカで付加価値の高い塩辛やイカ刺しを手掛ける計画だ。
 同社が扱う年間約2400トンのイカの1割が山形県産だ。「函館や八戸と比べて水揚げは少ないが、伸び代は十分ある。イカ釣りの山形船団の漁労長は大半が山形出身者。流通ネットワークを築いていく上で重要な人のつながりがあるのは大きい」と、社長の五十嵐七朗さん(62)は語る。
 11月に新工場が稼働すれば、全体の3割前後に山形県産のイカを用いる構想を温めている。

<内陸部に応援店>
 水揚げが少なく安定しない庄内浜で、水産加工は縁遠い産業だった。需要が少ないために魚価が上がらず、魚価が低いために水揚げが増えない。悪循環だった。
 「全国豊かな海づくり大会」を前に、山形県は2014年度から水産加工や流通の振興に本腰を入れて取り組んでいる。
 60近い企業、団体とつくった「水産加工振興コンソーシアム」。季節限定ながらエビやタイを用いた商品が次々と生まれた。
 食文化の違いや、朝日連峰に阻まれた交通事情の悪さから、太平洋側の魚介が占めていた県内陸部の食卓にも風穴を開けた。庄内浜の魚を扱う飲食店を「応援店」としてホームページ上などで公開。参加店舗は14年度の25から92に拡大。庄内浜の存在感が増し、消費者意識も変化してきた。
 水揚げは少量ながら、130種類に及ぶ多様な魚種が光る浜の特徴を生かし、漁業者による「量から質」への転換も始まった。

<東京からブーム>
 「東京でブームを起こし、地元に逆輸入する」
 鶴岡市のはえ縄漁師のグループは6年前から、東京・築地の中央卸売市場を舞台にサワラで勝負する。生で食べる習慣のなかった東京に、船上で生け締めや神経抜きを施したサワラを届け、独自の市場を開拓。「庄内おばこサワラ」として高級料亭でも取り扱われ、築地で皆無だった山形県産鮮魚の存在感を高めた。
 リーダーの鈴木重作さん(62)は「築地の評価が地元での魚価向上につながった」。近年は栽培漁業で増やしたトラフグも築地へ送り高値を付ける。「手間暇をかけても特化した商品をつくる。量に依存する漁業では生き残れない」
 産地ブランド化や県外への販路拡大において漁業者の奮闘が目立つ一方、浜では県漁協の存在感の薄さを指摘する声が少なくない。
 県漁協組合長の五十嵐安哉さん(73)は「数年前に2億円超に膨れ上がった繰越欠損金で大胆な挑戦ができなかった。あと1、2年で欠損金が解消すれば、産地市場の統合など変革に乗り出せる」と先を見据える。
 最少の海で脈打ち始めた変革の胎動を、行政はいかに支えるのか。吉村美栄子知事は8月29日の定例会見で「豊富な魚種を誇る庄内浜は可能性が高く、山形の観光業にも資する。海づくり大会を機にしっかりと水産業の振興を図っていく」と誓った。

[メモ]庄内浜では春のサクラマスに始まり、夏は岩ガキ、秋のサワラ、冬のマダラなど四季を通じて約130種類の魚介が揚がる。庄内地域では多彩な魚介を余すことなく用いて、寒ダラ汁やエビ汁、カニ汁など、内陸部にはない独自の汁文化も形成してきた。


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2016年09月03日土曜日


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