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<台風10号>強い絆と悲しみ 集落を包む

佐々木さんが鉄砲水に襲われた現場付近で捜索する住民ら=3日午後1時30分、岩手県岩泉町浅内

 孤立状態が続く集落に7人の住民が残る。台風10号の豪雨で道路が寸断された岩手県岩泉町浅内の大沢集落に徒歩で入った。大半の住民は消防や自衛隊のヘリコプターで避難所に移ったが、7人はあえて残った。車ごと濁流に流され、行方が分からなくなった友人を捜すために。
 折り重なった大量の流木が行く手を阻む。うずたかく積み重なった土砂が乾いて風で舞い、空がかすむ。
 大沢集落は町中心部から西に約14キロの山あいにある。町役場方面からの県道と集落を結ぶ幅3メートルの一本道は、崩落や土砂崩れで寸断。約3キロの山道が唯一たどり着くルートだ。
 家屋の流失はなかったが、一部で浸水被害が出た。普段は緩やかな流れの「大沢」が濁流となり、沢沿いの道路と田畑は跡形もなくなった。
 「妻と息子はヘリで避難させたが、私はまだここを離れるわけにはいかない」。集落会長の会社員佐藤誠さん(63)は流木に腰掛け、軍手で額の汗を拭った。
 集落の仲間で、豆腐店を営む佐々木寿彦さん(68)の行方が分かっていないからだ。
 佐藤さんらによると、台風が接近した8月30日午後7時ごろ、佐々木さんは高台の公民館に避難する前に車を坂の上に移動させようと、運転席に乗った。直後、ものすごい速度で鉄砲水が迫ってきた。
 「あなた、危ない」。近くにいた妻の広子さん(64)が助手席ドアから寿彦さんを引っ張りだそうと手を伸ばしてつかんだ。
 次の瞬間、濁流は2人を車ごとのみ込んだ。
 住民によると、広子さんとみられる遺体は2日午前、自宅前で見つかったという。県警が身元の確認を進めている。
 集落は代々、家族ぐるみの付き合い。畠山初郎さん(72)は「公民館で定期的に開くカラオケ大会で、2人は仲良くデュエットしていた。佐々木さんは懐が深く面倒見のいい人。広子さんは明るくてしっかり者だった」と振り返る。
 7人は積み重なる流木を手作業で取り払い、佐々木さんの手掛かりを捜す。3日午後に初めて消防が現地入りしたが、重機は持ち込めなかった。
 連日、日暮れ前まで捜索する。夜は7人で公民館に集まり、自衛隊の救援物資や持ち寄ったコメ、野菜をプロパンガスで煮炊きして夕食にする。夜は並んで眠る。明かりはろうそくと懐中電灯だけだ。
 農業の畠山勇さん(58)は「2人は誰もがうらやむおしどり夫婦。いつも周りを気に掛けて、何でも相談に乗ってくれた。何としても見つけ出す」。
 強い絆と悲しみが、小さな集落を包む。(盛岡総局・横山勲)

◎育てた野菜配る/穂高ミネさん

 4日に身元が判明した岩手県岩泉町袰(ほろ)野の穂高ミネさん(93)は週2回、町内のデイサービスセンターに通っていた。
 女性職員の一人は「いつもニコニコしていて、私たちの介助に感謝の言葉を掛けてくれた」と思い起こす。以前は自宅周辺の畑で育てたニラなどの野菜を持ってきたという。
 送迎車でセンターに到着すると「会えてよかった」と職員に握手を求めて喜んだ。風呂の時間が好きで、介助する職員を「上手」と褒めた。台風10号が直撃した8月30日が利用日だった。職員は「あれが最後の姿になるなんて」と涙ぐんだ。


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2016年09月05日月曜日


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