福島のニュース

<被災者いまだ癒えず>PTSD数年後も発症

 東日本大震災、東京電力福島第1原発事故被災地の精神医療支援の場として、福島県相馬市で2012年1月に開業した「メンタルクリニックなごみ」。現院長の蟻塚亮二医師(69)は、不眠や不可解な体の痛み、幻視幻聴といった受診者たちの苦しみを知り、震災時の過酷な体験の影響とみて診療を続けている。震災後5年半のいまも被災者の心の傷が癒えない現実を、このほど「3.11と心の災害」(大月書店・共著)にまとめた蟻塚医師に聞いた。(編集委員・寺島英弥)

◎震災5年半 精神科医蟻塚亮二さんが診た心の傷(上)終わらない痛み

<症状はさまざま>
 「なごみ」は、福島県内外の精神科医有志らが開設した。蟻塚医師は沖縄県での9年間の病院勤務を経て13年4月、2代目院長として赴任し、これまでに2000人以上を診察してきた。
 「あの震災以来、眠れない、体に痛みがある、パニック反応が起きる、気分が落ち込む、死んだ人の姿や声を見聞きする、といった悩みを多くの人が抱えていた。心の傷に触れず、話せる関係をつくって聴いた」
 語られる症状はさまざまだ。午前2時、3時、4時と何度も目覚めて眠れない「過覚醒不眠」。「11年3月11日の地震と津波で恐怖のどん底に置かれ、寒さと空腹の中で余震に襲われて眠れなかった体験が患者さんにあった」と蟻塚医師。
 ある若い男性は通院して不眠が改善し、北海道を旅した際、漆黒の闇夜に卒倒しかけた。「11年3月11日の夜の記憶が戦慄(せんりつ)とともにフラッシュバック(突然、鮮明に思い出す)した」
 「夜が怖い、夜中にトイレに起きると動悸(どうき)、恐怖感に襲われる、と訴えた女性の患者さんも何人もいる」
 蟻塚医師は原因を「トラウマ(心的外傷)記憶」とみた。あまりに強烈で心にストレスを強いる体験は脳内の意識下に刻まれ、似たような場面で呼び起こされる。「過去の出来事の記憶が現在進行形のまま何年でも熱く燃えていて、『今の私』に飛び込んでくる」
 トラウマ記憶が原因で、不眠やうつなどに苦しむ心の病を心的外傷後ストレス障害(PTSD)という。半年以内に発症しやすいが、蟻塚医師は「震災から2年ほどを過ぎてから、症状が表面化した被災者が多いことに気付いた」と話す。

<患者多発を懸念>
 ある女性は津波で家を流されたが、家族と無事に避難した。しかし、2年後、叔母の死をきっかけにPTSDの症状が出てきた。
 「被災者はつらい体験で心に傷を受けた。原発事故では何カ所も遠方に避難させられ、狭い仮設住宅で我慢を重ねた。皆が同じ境遇だからと頑張っている間は、トラウマ記憶は心の底に沈んでいるが、身内やペットの死、緊張が途切れる出来事などを引き金に、それが表面に浮かんでくる」
 こうした「遅発性」PTSDに悩む人は宮城、岩手両県の被災者にも多いはず、と蟻塚医師は懸念する。

[蟻塚亮二(ありつか・りょうじ)]福井県出身、弘前大医学部卒。藤代健生病院(弘前市)院長を経て2004年から沖縄県で病院勤務、13年4月から福島県相馬市の「メンタルクリニックなごみ」院長。著書に「沖縄戦と心の傷」(大月書店)など。


2016年09月10日土曜日


先頭に戻る