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<道しるべ探して>伝統工芸に広がる共感

機を織る井上さん(左)と新作の打ち合わせに訪れた金入さん=八戸市

◎とうほく共創 第4部ものづくり(下)東北スタンダード

 青森県八戸市に構えた工房で、青森県伝統工芸士の井上澄子さん(81)が機を織る。傍らで旧知の金入健雄さん(35)が熟練の技に見入っていた。
 東北各地の伝統工芸品を取りそろえたショップを八戸、盛岡、仙台、東京で展開する金入さん。中でも井上さんの手による南部裂織(さきおり)の文房具やバッグは人気の商品だ。
 着物など家にある古布を裂いて横糸にし、木綿糸を縦糸に地機(じばた)で織り上げる。木綿の入手が難しかった時代から旧南部領の青森県東部で女性たちに連綿と受け継がれてきた。
 「長く使った布から、また何十年も使える布を作る。裂織の精神は現代の消費者にも響くはず」と金入さんは語る。

 東日本大震災後、工芸品を紹介するインターネットのウェブサイトを開設し、作り手の思いを映像と写真で発信し続ける。これを金入さんは「東北スタンダード」プロジェクトと名付けた。
 「東北のもの」というだけで工芸品が買われる復興支援のあり方に違和感があった。「もっと背後にある東北の知恵や工夫を知ってもらいたい」
 青森のこぎん刺し、岩手の南部鉄器、秋田の曲げわっぱ、山形の庄内刺し子…。ショップには、暮らしの中から生まれた日常使いの工芸品が並ぶ。
 明治から昭和初期に一世を風靡(ふうび)した仙台の常盤(ときわ)紺型染もその一つだ。斬新な文様を復刻した手拭いが脚光を浴びる。
 「地域で磨かれた工芸品を使う暮らしが東北にはある」と金入さん。画一と量産のグローバルスタンダード(世界標準)を向こうに回した生活、それが「東北スタンダード」の意だった。

 一方で伝統は進化する。仙台の漆器「玉虫塗」を手掛ける東北工芸製作所が新たな道を切り開いた。
 2009年にアニメのキャラクターを玉虫塗で描いた絵はがきを販売して以降、アニメやゲームとの「コラボ商品」を繰り出す。震災後はファッションブランド「グッチ」と組んで玉虫塗の腕時計を発売した。
 12年には「使う工芸」をうたった新ブランドを創設。食器洗浄機で洗える玉虫塗は、漆器の常識さえも打ち破った。
 「将来に残るものだけが伝統になる」と常務の佐浦みどりさん(47)は言う。そして「時代の求めに応じて形を変え、普遍的な価値に共感してもらわなければ伝統として残らない」
 伝統の世界に革新があった。


2016年09月26日月曜日


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