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<道しるべ探して>現場視点で安定戦略を

藤本隆宏(ふじもと・たかひろ)1955年、東京都生まれ。東大卒。三菱総合研究所を経て米ハーバードビジネススクール博士課程修了。98年東大大学院経済学研究科教授。2004年から現職。専門は技術・生産管理論。

◎とうほく共創 第4部ものづくり/東大ものづくり経営研究センター長 藤本隆宏氏に聞く

 日本経済は戦後の東西冷戦期に伸びた。前半の20年は高度成長期。後半の20年は成長鈍化の中、現場の能力構築で貿易黒字を維持した。
 しかし冷戦終結後の1990年代は、バブル崩壊や円高、少子高齢化による国際競争力の低下に、低賃金・人口大国である中国の世界市場参入が重なり、日本経済は長期停滞に転じた。
 国内のものづくりの現場も、賃金差のハンディを負って危機に陥った。賃金差が3倍なら生産性を3倍にすれば勝負できるが、賃金差が20倍では焼け石に水だ。それでも現場を重視する企業は、地道に生産革新を積み重ねてきた。
 2005年ごろから中国の賃金が上がり始めると、再び潮目が変わった。ほぼ3〜5倍に縮まった賃金差は、生き残りのために生産性を3倍、5倍、8倍にしてきた国内の優良な現場にとっては十分に戦えるハンディだ。
 日本経済は「失われた20年」だったが、ものづくりの現場の多くは「苦闘の20年」を闘い抜いた。

 移民を即戦力化して成長した米国の現場は、分業の発達した野球型。これに対し、移民なしで高度成長した戦後日本の現場は、分業している暇がなく、多能工のチームワークが持ち味のサッカー型が多くなった。
 現場重視の企業は、生産革新で生産性が上がっても余剰人員を解雇せず、社長が走り回って新しい仕事を取ってくる。そこには現場と経営者の相互信頼がある。「現場は地域の一部」という意識を持ち、雇用確保のために有効需要を創出する知恵を絞ってきた。
 政府の経済政策「アベノミクス」は、現場視点がまだ弱い。雇用と顧客満足と利益を同時に追求し、草の根イノベーションを行うのが良い現場で、アベノミクスにとっては強い味方のはずなのだが、これを日本に残すための施策が足りない。
 東西分断の冷戦期と異常な国際賃金差のポスト冷戦期が終わり、現場と企業が知恵を出して頑張ればグローバル競争に生き残れる時代に入りつつある。世界が不安定化する中、大事なのは成長戦略に加え「安定戦略」ではないだろうか。

 東日本大震災は、グローバル経済下の先進国で初めて起きた巨大災害だった。被災地の産業は、復興と同時にグローバル競争にも対応しなければならない。
 復興優先は当然だが、復興対策に依存しすぎると潮目の変わりつつある今の世界経済の流れに乗り遅れてしまう。必要なのは現場重視の世界競争戦略だ。
 復興に励む間にも世界経済は進化していくし、競争は毎日起こっている。復興需要に過度に頼らず、早く「普通に発展する地域」に戻ることこそが東北の成長戦略だ。


2016年09月27日火曜日


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