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<台風10号>帰らぬ人へ 深まる悲しみ

「楽ん楽ん」に設けられた献花台には多くの花が供えられた=30日午後0時10分ごろ、岩手県岩泉町乙茂

 濁流の猛威が残る町に、黙とうを呼び掛けるサイレンが鳴り響いた。無念そうに目を閉じる人、肩を震わせすすり泣く人。それぞれの思いが胸にこみ上げる。岩手県に甚大な被害をもたらした台風10号豪雨は30日、発生から1カ月となった。19人が犠牲になった岩泉町では町民が各地で祈りをささげ、帰らぬ人を悼んだ。「安らかに眠ってほしい」。遺族や友人は癒えぬ悲しみを心に刻んだ。

<沈痛な表情>
 正午。防災無線から鎮魂のサイレンが秋晴れの空に響いた。入所者9人が死亡した高齢者グループホーム「楽(ら)ん楽(ら)ん」では、運営する医療法人社団「緑川会」の職員約70人が献花台前に並び、手を合わせた。
 佐藤弘明常務理事(53)は「入所者にもっと思い出をつくってあげたかった。謝って済む問題ではないが、何年でも謝り続けるしかない。もし許されるのであれば、施設運営の全てを見直して一から出直したい」と沈痛な表情で語った。

<無駄にせぬ>
 家族を失った遺族は、この1カ月に積み重ねた思いを静かに語った。義母の中屋敷チエさん(85)を亡くした明子さん(47)は「1カ月たって気持ちは落ち着いてきた。今は義母の死を無駄にしてほしくないとの思いでいっぱい。二度と不幸が起きないよう、全国の福祉施設で災害対策を徹底してほしい」と話した。
 同町の建設会社経営畑中善四郎さん(67)は叔母の畑中ソメさん(82)を失った。「遺族にとって1カ月は何の区切りでもない。叔母はまだまだ人生を楽しめたはずだ。避難していれば助かった命。心の整理がつくには時間がかかる」とうつむいた。

<むせび泣く>
 100人が避難生活を送る町役場近くの町民会館では正午、住民らが目を閉じ手を合わせた。約10人が集まった1階ロビーには、むせび泣く声が響いた。
 「大事な集落の仲間を一度に2人も亡くした。心が痛くて涙が出る」。浅内地区の無職畠山レイ子さん(80)の自宅がある大沢集落では、豆腐店を営む佐々木寿彦さん(69)、弘子さん(64)夫婦が濁流に巻き込まれ、命を落とした。
 家族ぐるみの付き合いだった。「本当に仲の良い夫婦。無念だったと思う。どうか安らかに眠ってほしい」と目頭を押さえた。
 子ども3人と町民会館に避難した尼額(あまびたい)地区の会社員前川えりさん(28)は「こんな水害に遭うとは誰も思っていなかった。亡くなった方のためにも、教訓を心に刻んで暮らしていきたい」と誓った。


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2016年10月01日土曜日


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