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<再起 東北と共に>移転と残留 住民迷う

大切畑集落で重機を操作し、被災家屋を解体する大谷さん(左)=13日、熊本県西原村

◎熊本地震半年(下)集落維持/将来像丁寧な議論重要

 阿蘇山の西に位置する熊本県西原村。熊本地震で隣の益城町とともに震度7を観測し、甚大な被害を受けた。山あいの斜面に広がる大切畑集落では半年がたった今も、家屋を解体する重機の音が響く。

<甚大な被害>
 同集落では全26戸のうち23戸が全半壊した。集落区長で、解体作業を担う造園業の大谷幸一さん(51)は「地元で多くの住宅を解体するのは複雑な思いもあるが、作業をしないと復興は進まない」と前を向く。
 住民約80人は集落から3キロ離れた村役場近くの仮設住宅団地で暮らす。最も大きな悩みは、住宅を集落内に再建するか、移転するかの選択だ。
 宅地が地震の影響を受けた問題もあり、一時は集団移転の構想が持ち上がりかけた。だが、地質の専門家による調査で現地再建は可能との見通しが示された。
 村は9月、約2キロ離れた小学校近くへの集団移転を選択肢の一つとする案を示したものの、用地取得が難しく立ち消えになった。
 再建の具体案が見えず、集落全体の話し合いもできない日々が続いた。大谷さんは「やっと暮らしが落ち着きを取り戻したばかり。移転を検討する住民もいるようだが、迷っている人も多い」と説明する。

<女性の声も>
 事態を少しでも打開しようと大谷さんらは9月22日、東北工大の福留邦洋准教授(45)を仮設団地の集会所に招いた。2004年の新潟県中越地震や、東日本大震災の被災地で集落再生の助言を続ける研究者だ。
 「住民同士が根気強く話し合う過程が大事で、それが満足や納得につながる。行政任せでは住宅を建てた後で不満が出やすい」
 福留さんは各世帯の代表ら約30人を前にこう強調し、被災後に集落が高台移転した宮城県女川町の竹浦地区や、中越地震後の住宅再建の事例などを説明した。
 竹浦地区の住民の声として「将来の子どもの独立など、家族の形が変わることを見越し、冷静に考えるべきだ」との意見も紹介。世帯主の主張ばかりを重視せず、母親ら女性の声も尊重しながら家族間で話し合うことの大切さも伝えた。
 福留さんの話をきっかけに、9月末に中越地震の被災地を自主的に視察した大切畑集落の坂本英和さん(42)は「新潟でも『何度も話し合うことが大事』との助言を得た。互いの気持ちを受け入れながら先行きを検討したい」と語る。
 大切畑集落では熊本地震の発生直後、9人が全壊家屋の下敷きになったが、住民の救命活動によって全員が助け出された。水道修理やがれき撤去でも住民が助け合い、結束力を強めた。
 「先祖代々の土地だから、理想としては集落に残ってほしい。だが、移転する住民もできるだけ良い形で再建できるようにしたい」。大谷さんは区長として仲間を思いやる。東北の被災地の経験も参考に、まずは今月下旬、初めて集落全体で意見を交わすための準備に取り掛かっている。

[メモ]熊本地震の住宅被害は熊本県内で17万2077棟に上り、うち全壊は8848棟、半壊は3万809棟。支援策として、被災者再建支援法に基づき全半壊した被災者に最大300万円を支給する制度や、半壊の住宅に住み続ける被災者向けの応急修理助成制度などがある。被災した宅地の盛り土の崩落防止や液状化対策の補助制度も作られた。


2016年10月16日日曜日


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