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<台風10号>再起懸け愛馬競り市へ

愛馬ヴォイスをなでる佐々木さん

 台風10号豪雨で被災した岩手県岩泉町の馬生産者佐々木海さん(26)が、11月に遠野市である乗用馬の競り市に1頭を上場する。小本川の氾濫で飼育中の9頭のうち2頭が行方不明になり、馬小屋も流された。苦境に直面しながらも「大切に育て、災害を生き延びた馬だから何とか売れてほしい。今までやってきたことを無駄にしたくない」と力を込める。
 佐々木さんの馬小屋と放牧場は同町中島の河川敷にあった。8月30日午後6時すぎ、消防団の呼び掛けで馬を堤防の上に避難させている間に川が一気に増水。親子2頭が濁流にのみ込まれたが、どうすることもできなかった。
 周辺一帯は冠水、高台の空き家で夜を明かした。「ヒヒン、ヒヒン」。暗闇から馬の鳴き声が聞こえるたびに無事を祈り「ごめん、助けられない」と謝った。
 最悪の事態を覚悟して迎えた翌朝。河川敷に戻ると、泥で真っ黒になった6頭が立っていた。さらに13歳の牝馬ヴォイスが、近くのビニールハウスの中で無事だった。
 小学生のとき、馬の出産を初めて見たときに誕生した思い入れの強い馬だった。「ああよかった」。涙があふれてきた。
 もともと父の忠彦さん(63)が食堂経営の傍ら、馬を飼っていた。佐々木さんは高校卒業後、食堂を手伝いながら馬生産者になることを決めた。種付けし、生まれた子馬を育て年1回の競り市に出す。2010年以来、遠野市乗用馬生産組合の最年少として上場を続けてきた。
 台風では刈り取った餌の牧草も大半が水に漬かり、7頭の飼育は困難になった。途方に暮れる中、知り合いの生産者が、11月に上場予定のシャーロットなど4頭を当面預かってくれることになり、一安心した。
 被災から間もなく2カ月。約80センチ浸水した自宅や食堂の清掃は一段落したが、馬小屋や放牧場を含めた再建はこれからだ。いなくなった2頭を思い出すと、今も気分が落ち込む。
 支えはヴォイスを含む2頭が妊娠中で、来春に出産することだ。元気な子馬が誕生する瞬間を心待ちにし、買い手が付く立派な馬に育てようと誓う。
 「自分には大好きな馬と向き合える今の仕事しかない。今度の競り市でシャーロットが売れ、生活が元通りになるきっかけになればいい」。送り出す愛馬に再起への願いを込める。


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2016年10月23日日曜日


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