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<台風10号>落ち度検証重ね教訓に

濁流に巻き込まれた友人を捜す住民ら。間もなく警察が遺体を見つけ、身元が判明した=9月3日、岩手県岩泉町浅内地区

 岩手県岩泉町に大きな爪痕を残した台風10号豪雨は、間もなく発生から2カ月となる。県内の死者は同町を中心に20人に上り、いまだ3人が行方不明となっている。同町の危機管理の甘さが露呈したことに加え、高齢者グループホームでは入所者9人が犠牲になり、福祉施設の防災の死角を浮き彫りにした。痛ましい犠牲から得られる教訓の検証はこれからだ。

 台風が岩手沿岸を直撃した8月30日夕、岩泉町の高齢者グループホーム「楽(ら)ん楽(ら)ん」は小本(おもと)川の濁流に襲われ、入所者9人が死亡した。翌日夕、現場を見た。窓ガラスは全て割れ、屋根の真下外壁には浸水の痕がくっきりと残っていた。
 9月3日には道路寸断で孤立状態となった同町浅内地区の集落に入った。住人が避難せず濁流に消えた友人を捜していた。一緒に流された友人の妻は前日に遺体で見つかった。集落の仲間が「2人を一緒にしたい」と流木をはねのけた。
 なぜ、これほど甚大な被害になったのか。
 台風が迫っていた8月30日午後4時半ごろ、伊達勝身町長は自ら車で小本川の水位を見て回った。午前中には避難準備情報を全域に出した。避難勧告や指示を出さなくても「大丈夫だろう」と判断した。
 直後、雨が激しくなった。盛岡地方気象台によると、同町の午後6時21分までの1時間降水量は観測史上最多の70.5ミリ。川は一気に増水し濁流と化した。
 町役場は住民からの電話が鳴りやまず、まひした。「楽ん楽ん」の犠牲について伊達町長は「早めに避難勧告を出していれば助かったかもしれない。私の責任だ」と謝罪した。
 「楽ん楽ん」を運営する医療法人社団「緑川会」の落ち度も重なった。職員たちは要援護者の避難を促す避難準備情報の定義を知らなかった。隣の3階建て介護老人保健施設が2011年9月に洪水被害に遭っていたのに水害避難マニュアルも作成していなかった。
 災害時の行政機能まひや災害弱者の犠牲は、過去にも繰り返されている。
 昨年9月の関東・東北豪雨で鬼怒(きぬ)川が決壊し、2人が死亡した茨城県常総市も避難勧告を出すのが遅れた。住民や関係機関から電話が殺到し混乱した。04年7月に新潟・福島豪雨に襲われた新潟県三条市では、死者9人のうち7人が65歳以上の高齢者で、うち4人が介護認定を受けていた。

 常総市の災害対応の第三者検証委員で筑波大システム情報系の白川直樹准教授(河川環境工学)は「避難情報は川の水位や降雨量が一定基準に達したら機械的に出すのが望ましい。情報系統が複雑になれば遅れにつながる」と指摘する。
 岩泉町ではライフラインがほぼ復旧し、仮設住宅の建設も始まった。住民生活が落ち着いた段階で、町は第三者を交えた危機対応の徹底検証と防災計画の見直しに着手すべきだ。
 緑川会も対応を迫られる。なぜ9人が犠牲になったのか、遺族の納得は十分に得られていない。原因を突き止め、説明を尽くす責任がある。入所者避難の課題を洗い出すことが、教訓につながるはずだ。
 全てを「想定外」で片付けてはならない。(盛岡総局・横山勲)


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2016年10月24日月曜日


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