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<復興基金>五輪会場整備 被災者に違和感

東京五輪・パラリンピックのボート、カヌー・スプリント会場候補に浮上した宮城県長沼ボート場=登米市

 2020年東京五輪・パラリンピックのボートとカヌー・スプリントの会場候補地、宮城県長沼ボート場(宮城県登米市)を巡り、村井嘉浩知事が整備費などの財源の一部に東日本大震災復興基金を充てる考えを示したことに、被災者から疑問の声が上がっている。使途の自由度が高いとはいえ、復興の途上、行政主導で唐突に浮上した使い方は説明不足の感が否めない。(報道部震災取材班)

<複雑な気持ち>
 「被災した沿岸部は住民が激減している。複雑な気持ちだ」。宮城県山元町の無職菊地洋子さん(76)は津波で壊れた自宅を再建したものの、地域課題が山積する現状を嘆く。復興基金が五輪に使われることを「今のままでは手放しで喜べない」と言う。
 仮設住宅暮らしが続く宮城県多賀城市の無職大場誠さん(72)は「東北の活気につながるなら歓迎したい」とした上で、「復興が最優先。基金は被災者や被災地の復興を直接進めるために使ってほしい」と話す。
 10月21日の県議会常任委員会では「復興財源を使うのは適切でない」などと異論が出た。県は「被災者優先のスタンスは変わらない」と強調したが、説明が十分とは言いがたい。
 復興基金はそもそも、被災者の自立支援や復興政策を進めるための資金。単年度予算の枠に縛られず、通常の補助事業に当てはまらないメニューにも弾力的に対応できる。使途の自由度が高く、自治体にとって使い勝手のいい財源だ。
 長崎県雲仙・普賢岳噴火災害(1991年)を皮切りに阪神大震災(95年)や新潟県中越地震(2004年)、今年の熊本地震でも創設され、災害時における柔軟性、機動性、補完性などが評価されてきた。

<仕組みが変化>
 ただ、運用形式は東日本大震災と、それ以前とでは大きく異なる。従来は地方交付税や寄付金などを原資に利子を活用する「運用型」だったが、東日本大震災では「取り崩し型」。低金利時代に対応した結果だ。
 運営主体も変わった。商工、福祉など民間団体を含む財団から、自治体の直営へ。宮城県財政課は「迅速に対応するスピードを重視した」と説明する。
 基金の仕組みの違いは、使途決定の在り方にも関わる。復興基金に詳しい東北工大の福留邦洋准教授(復興まちづくり)によると、財団方式の阪神、中越では財団の理事会で使途を決め、一定の透明性が確保できた。理事会には自治体のほか民間団体も加わり、実情に沿った多様なニーズを反映しやすかったという。
 直営方式は機動性が高い半面、自治体の裁量が大きく、使途の決定過程は一般には見えづらい。
 福留准教授は「事業メニューの提示が官主導になりがち。自治体に都合のよい打ち出の小づちになる可能性がある」と懸念。「復興基金を使うのであれば『復興五輪』の意義を明確にし、広く被災者の理解を得る努力が欠かせない」と指摘する。

[東日本大震災復興基金]国は2011年10月、基金の原資として青森、岩手、宮城、福島の東北4県をはじめ茨城、栃木など被災9県に計1960億円を特別交付税で措置。宮城県は特別交付税660億円にクウェート支援金などの寄付金を加え積立総額は910億円。特別交付税の半額は県内全市町村に配分した。被災者の生活支援や教育、農林水産、商工業の4分野を柱に事業を立案。中小製造業者の施設設備復旧、養殖施設の復旧、新医学部設置関連などに充て、15年度末の残高は291億円。県は長沼ボート場整備費を150億〜200億円と試算する。


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2016年11月02日水曜日


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