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<復興へのリレー>支えに感謝 再開を決意

再建した店内で丹念に作業する中村さん

◎石巻・スポーツの群像(11完)自転車店「中村サイクルセンター」代表 中村精一郎さん

<父から受け継ぐ>
 東日本大震災の被災者の集団移転が進む、石巻市新蛇田地区。新たな街の一角に「中村サイクルセンター」は立つ。店にはスポーツ向けのマウンテンバイクや日常生活用の自転車などが並ぶ。
 代表の中村精一郎さん(67)が昨年12月に店舗兼住宅として再建した。職人歴約50年の腕前。修理や点検、組み立てをこなし、商品選びの相談にも気軽に応じる。
 震災前と比べ、店の広さは半分に満たず、売り上げは8割程度にとどまる。それでも中村さんの表情は明るい。「自転車をお客さんに渡す時、喜んでいる顔を見るとうれしくなるね」
 2011年3月11日。同市門脇地区にあった店舗兼住宅は、津波と火災で骨組みをさらす姿に変わり果てた。中村さんが高校卒業後、父の故倉雄さんから受け継ぎ、地域住民らに親しまれていた。

<体調悪化 弱気に>
 中村さんは震災後、避難所で生活し、体調が悪化。多くの常連客も被災していた。「店を再開しても商売にならないんじゃないか」。ある客からのロードレーサーのフレームの注文を断ろうと考えた。
 注文したのは、当時石巻専修大学長だった坂田隆さん(65)の息子。父親の還暦祝いに贈ろうと震災前に依頼していた。
 中村さんは3月下旬、坂田さん本人に直接電話した。「キャンセルしたい」。弱気な声で告げると、坂田さんは強い口調で奮起を促した。「許しません。再開1号で納入してください」
 坂田さんは20代の頃からの自転車愛好家だ。「中村さんは自転車の専門知識や技術に優れ、客の命を預かっているという自覚が強い」。信頼できる「まちの自転車屋さん」の復活を待ち望んでいた。
 中村さんは約1カ月後、坂田さんにフレームを届ける。避難所では、修理の依頼が相次いだ。お客に背中を押され、再開を決意。市中心部の喫茶店跡を借り、12年1月に仮店舗を構えた。「多くの支えで再開できた。自分の力はほんの一握り」と感謝する。

<健康維持に活用>
 生粋の自転車乗りでもある中村さん。今年春、久々に愛車のマウンテンバイクで街を走った。筋力が落ち、すぐに心拍数が上がった。今後は健康維持のために乗っていこう、と思う。
 5月には札幌市の自転車同好会のメンバーが石巻を訪れた。中村さんは被災した友人に語り部を頼み、門脇地区やその近くの日和山を案内してもらった。
 「少しずつではあるけれど、震災前の生活が戻りつつある。自転車を活用した観光ツーリズムの機運が高まってほしい」
 被災地の一日も早い復興を願いながら、中村さんは今日も自転車と向き合う。
(石巻総局・水野良将)


2016年11月12日土曜日


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