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<津波被災>二つの悲劇に落差 信頼醸成必要

斎藤徳美氏(さいとう・とくみ)東北大大学院工学研究科博士課程修了。岩手大教授、同大理事・副学長を歴任。岩手県東日本大震災津波復興委員会の総合企画専門委員長、釜石市鵜住居地区防災センターにおける東日本大震災津波被災調査委員長、釜石市防災・危機管理アドバイザーを務める。専門は地域防災学。秋田市出身。71歳。

 東日本大震災の津波で児童と教職員計84人が死亡・行方不明になった石巻市大川小の19遺族が、市と宮城県に損害賠償を求めた訴訟は、市と県、遺族の双方が一審判決を不服として控訴し、法廷での争いが続くこととなった。
 遺族、行政がともに求めていたのは、なぜこのような悲劇が生じたのか、二度と災禍を繰り返さないために何をすべきかを明らかにすることではなかったのか。
 遺族と行政との深い溝を目の当たりにし、震災の象徴的な悲劇となった二つの地域の落差を痛感する。

◎岩手大名誉教授 斎藤徳美

 釜石市では、市鵜住居(うのすまい)地区防災センターが津波の1次避難場所でないにもかかわらず、住民が避難して多くの犠牲者を出した。
 当初、遺族側には強い悲憤があったが、市当局の責任者である危機管理監と遺族代表が調査委員会の同じテーブルに着いて出した報告書は、遺族の会に評価されるものとなった。
 委員長に就いた小生は真実を明らかにすることを最優先に据えた。遺族側が不信感を抱いては調査はできないと、遺族代表に心情や思いを語ってもらう機会をつくり、信頼の醸成を図った。
 市は調査に全面的に協力し、全ての文書を開示。職員の聞き取り調査も委員会の求めるままに行った。委員会は公開し、得られた情報は可能な限り開示した。
 遺族代表が委員となったことで、被災者の行動、遺族の心情など聞き取りにくい情報も多く集められた。
 立場を異にする両者の率直な意見交換は、客観的に何が行われ、なぜ大きな犠牲を出すに至ったかを解明するのに有意であった。
 調査の目的は犯人捜しではない。鵜住居で多くの犠牲者を出した原因の解明と今後の防災対策の在り方を検討することだった。
 調査委は、「防災センター」の名称が津波の1次避難場所であるかのような誤った認識を生じさせ、避難訓練で使用したことなどが多くの犠牲者を出す結果を招いたと判断した。
 報告書では、センターが津波1次避難場所でないことの周知が不十分な上、避難訓練での使用を容認した市の責任は重く、避難訓練を企画した自主防災組織や地域住民の認識も不足していた点を指摘した。
 これを受け釜石市では、真の住民参加を促す避難訓練への見直し、防災士の資格取得など職員の危機管理意識の向上、津波教訓集の全戸配布など具体的な取り組みを徐々に始めている。調査委が強調したのは「従来とは異なる発想」での取り組みの必要性だ。

 大川小の訴訟は遺族と行政のボタンの掛け違いから始まったのではないか。空白の51分間に何があったのかすら不確かで、教育委員会や市当局の側に、情報を開示して真実を解明しようとする姿勢が欠けていたことは否めない。
 生徒の安全を守るのは学校の最大の責務だ。教委や行政は、教職員が自然災害や危機管理に関して正しい認識を持ち、判断力を身に付けるべく対策を講ずる責任がある。
 結果的に適切な指導がなされていなかったことは自明であり、責任を明確にして具体的対応を立案し、実行することが急務だ。
 行政責任とは、二度と惨禍に見舞われないよう対策を講じる、いわば「未来責任」であると考えている。


2016年11月22日火曜日


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