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<被災地移住>原発事故と雪害が契機

花ちゃんを抱っこしながら、牛の様子を確認する壮さんと尚子さん

 東京電力福島第1原発事故の影響で、新規就農者が減る宮城県丸森町筆甫地区。今夏、酪農を継ぐために東京から戻った男性がいる。貴重な後継者の誕生に地域は期待を寄せる。
 Uターンしたのは、酪農家目黒正紀さん(65)の長男壮(たけし)さん(33)。8月に帰郷し、今は朝夕の搾乳などで忙しい日々を送る。
 約80頭の乳牛を飼う目黒家は、壮さんの祖父多賀司さん(93)が酪農を始め、正紀さんの代で専業に。壮さんは大学院で畜産を学び、都内の医療機器商社に勤めていた。「実家に戻ろうとは考えていたが、老後のことという感じだった」と振り返る。
 2014年2月、大雪で牛舎がつぶれたのが転機になった。正紀さんは原発事故の放射性物質汚染の影響で自前の牧草を餌にできず、高価な輸入飼料の使用を余儀なくされていた。東電の賠償の支払いは不定期で、収入は一時半減。牛舎損壊の追い打ちで、正紀さんは廃業を考えた。「原発事故の影響で牧草が使えず経営が心配だった」という壮さんは家業を継ぐと決めた。
 牧草地の除染が今春終了するなど、地域は落ち着きを取り戻しつつある。壮さんは「会社と違い、自分の力で挑戦できる。収益性を高めたい」と意気込む。国の災害復旧の補助を受け牛舎を建て替え、給餌の完全機械化やパソコンでの個体管理徹底を模索する。
 壮さんの妻尚子さん(36)は東京出身。1歳3カ月の長女花ちゃんと移住した。「物質的な不便さは感じない。家族で過ごせる時間が長く、子どもにとって幸せ」と新生活が楽しい。
 町によると、親元での就農を含む新規就農者は、原発事故前の5年間で12人いたが、事故後の5年間では6人と半減。町は新規就農者への独自の補助を設けるが参入は鈍い。
 筆甫の人口は事故前から190減り620。高齢化率は48.7%と町内8地区で最も高い。住民自治組織筆甫地区振興連絡協議会の引地弘人会長(68)は「若者が戻ってくれて喜ばしい。地域を支える後継者になってほしい」と期待する。
 「農業で生計を立てるのは大変。だが、親としてはうれしい選択。家族仲良く暮らしてほしい」。先輩農家でもある正紀さんは、壮さん家族を温かく見守る。


2016年12月05日月曜日


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