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<E番ノート拡大版>岸 人生岐路に悩み決断

西武のファン感謝イベントであいさつする岸。苦悩の末に東北楽天入りを決めた

 仙台市出身の岸孝之投手(32)=東北学院大出=が西武からフリーエージェント(FA)宣言し、東北楽天に入った。10年過ごした西武を離れて地元に帰った背景には何があったのか。そこには人生の岐路に立った野球人の苦悩が浮かび上がる。

<西武へ不信募る>
 彼とは仙台六大学野球時代からの知り合いだ。東北楽天入りの記者会見が終わってから、携帯電話にメッセージを送った。地元で活躍する意志を明確に示した姿が実に頼もしく思えたからだ。
 同日深夜、律義に電話をもらった。
 「悩み続けた日々がもうすぐ終わりそうです」。苦悩から解き放たれた安堵(あんど)感が穏やかな声から伝わってきた。
 心の葛藤は今年9月に始まった。
 今季は3年契約の最終年。昨シーズンに続き2桁勝利に手が届きそうにもない中で球団側と初交渉した。来季へ向けて少しでも背中を押してくれる内容なら、残留する意向だった。だが、契約年数や提示額は誠意を感じるものでなかった。その後、何度か交渉を重ねても譲歩してくれない。
 「本当に必要とされているのか」。球団への不信が募った。世話になった仙台の関係者に相談すると、何人もの人から「古里で野球をやる道もあるんじゃないか」と言われた。プロ入り時に断ったはずの地元への思いが湧き上がった。FA宣言後の流れは周知の通りだ。

<ファンの前で涙>
 一連の経緯で彼の人柄がよく出たのは西武のファン感謝イベント(西武プリンスドーム)であったかもしれない。11月23日、岸は10年親しんだ背番号11の姿でファンに別れのあいさつをした。批判を受けるのは百も承知だった。
 「今日参加していいのかすごく悩んだが、ファンの皆さんにあいさつをせずにいなくなるのは嫌だった」と切り出し、「10年間、どんなときも温かく見守っていただき、今の自分がある。感謝の気持ちを忘れず、これからも頑張っていきたい」。ファン一人一人と握手し涙が込み上げてきた。
 さかのぼること5日前の18日、岸は東北楽天への入団記者会見に臨んでいる。悩んだ末に選んだ道に用意された舞台だった。
 「活躍できなければ批判される。それでも地元のためにプレーする覚悟です」。力強く言い切った心の隅には西武ファンへの思いも抱えていたのだ。
 岸が帰ってくる。会見のあった日の深夜の電話で、岸に言おうとした言葉がある。「これからだよ。まだ何も始まっていないんだよ」。重圧をかけるようなのでやめた。でも、彼ならきっと何もかも吹っ切れた姿を見せてくれるはずだ。(金野正之)


2016年12月07日水曜日


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