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<東北の本棚>食でたどる父の思い出

◎ごはんの時間井上ひさしがいた風景/井上都 著

 山形県川西町出身で仙台文学館の初代館長を務めた作家の故井上ひさしさん。その長女である著者が、四季折々の「ごはん」のある風景からよみがえる、父や家族の思い出をつづったエッセー集だ。毎日新聞夕刊に連載したコラム101編をまとめた。
 「鰺(あじ)の押寿し」「揚げ餃子(ぎょうざ)」「白菜のおひたし」「1ドル銀貨パンケーキ」「小茄子(なす)の漬物」…。一話一話に食べ物のタイトルが付けられ、それにまつわるエピソードがときにユーモラスに、ときにしみじみと記されている。仲たがいし和解できないうちに亡くなった父への思慕が随所ににじみ出る。
 「塩味のスパゲティ」は、「父が好んで食べていた母の夜食の断然一番」だったという。寝室で夜、父が夜食を取る時間を妹たちと布団の中で待ち、父と母の機嫌が良さそうだったら出て行く。父が「君たちも食うか?」と言うと、明日の学校は休みとなり夜食の仲間入りができる。著者自身も大好きだったと振り返る。
 「カップ麺」にも父との思い出がある。高校生のころアガサ・クリスティに夢中だった著者。父は喜び、ハヤカワ文庫の全巻をそろえてくれた。父が徹夜宣言をした夜は書斎の入り口に座り、著者も徹夜態勢で読んだ。夜中の3時、父が湯を沸かし始め、窓の桟にきれいに並べられたカップ麺から「これなんかいいと思うよ」と勧める。著者は「カップ麺を夜食に、徹夜でクリスティを読むのが、私の夢」と語る。
 1963年東京都生まれ。87年に父の劇団「こまつ座」代表を引き継ぎ2001年まで務める。現在は文筆家。千葉県市川市在住。著書に「宝物を探しながら」など。
 新潮社03(3266)5411=1620円。


2016年12月18日日曜日


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