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<わさびの里新世紀>独自技術で寒さ克服

豊かな湧き水が育んだワサビを1本ずつ手作業で収穫する佐藤さん=11月末、遠野市宮守町達曽部

 岩手県遠野市の特産品ワサビが収穫の最盛期を迎えている。昨年で栽培開始100年となった東北有数の産地は、長年の努力で培った品質が高評価を得る一方、担い手確保や生産拡大という課題を抱える。次の世紀を歩み始めた「わさびの里」の現場を訪ねた。(釜石支局・東野滋)

◎遠野生産開始から101年(上)伝統

 澄んだ水が足元をさらさらと流れる。ビニールハウスの外は雪が降りだした。
 11月末、遠野市宮守町達曽部の白石地区にあるワサビ田。遠野わさび生産者協議会の佐藤昭悦会長(65)が砂地からワサビを次々掘り出し、葉や細い根を切り落とす作業を続けていた。
 階段状のワサビ田は、付近の「大洞カルスト」と呼ばれる石灰岩地帯の豊富な湧き水を引き込む。
 「きれいなだけでなく、水温が12度前後と一定なのもワサビに最適。上品な辛さと甘みがあり、香り高いワサビが育つ」

<長期栽培可能に>
 遠野のワサビ栽培は1915年、湧水(わくみず)地区で始まった。当初は度重なる水害に悩まされ、本格的な生産には程遠い状況が続いた。
 現在に至る産地の礎を築いたのが、佐藤さんの祖父の故裕福さんだ。58年ごろ、国有林を借りてワサビ田を造成。先進地の静岡県などで栽培法を学び、販路開拓に力を入れた。
 農家の技術は向上し、水害対策も進んだ。76年には厳寒期にワサビが凍るのを防ぐ独自のビニールハウス方式が編み出された。冬をまたいだ1年半以上の栽培期間が可能になった。
 「ワサビが大きく育ち、値段が上がった。今では遠野の全てのワサビ田がビニールハウスで覆われている」。佐藤さんが先人たちの「革命」をたたえる。以降、ワサビ田は拡大を続けた。
 91年には宮守わさびバイオテクノロジー公社(現遠野わさび公社)が発足。病気に感染していないクローン苗を安価で農家に供給する体制を確立した。現在は16戸が年約6トンを生産し、食品メーカーや東京都中央卸売市場に出荷している。

<すし店から人気>
 試行錯誤で品質を高め、有数の産地となった遠野のワサビに今、追い風が吹く。
 国内の不作や一般消費の拡大、世界的な和食人気をを受けた需要増だ。市場価格はここ5、6年で1キロ約3000円から約6000円へと倍増した。すりおろしたときの粘りが強い「真妻(まづま)」という品種が主力のため、すし店の人気を集める。
 とはいえ、年200トン以上を生産する長野、静岡両県に比べると市場での存在感は薄い。
 卸売りの東京シティ青果野菜第3部第2課の新川洋幸課長(42)は「全国的に真妻の栽培は減少し、遠野にはチャンスがある。各農家が品質底上げと増産に取り組み、切れ目ない出荷をしてほしい」と期待する。
 2017年秋には第51回全国わさび生産者大会が市内で予定される。地元開催は旧宮守村であった23回大会以来28年ぶりで、遠野のワサビを広くアピールする絶好の機会となる。
 佐藤さんは「市場の評価は励みになる。栽培適地が限られ、新規参入が難しいワサビの産地を築き上げたことは今後も大きな強みだ」と語る。


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2016年12月21日水曜日


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