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<わさびの里新世紀>都会の若者らに活路

ワサビの苗をチェックする菊池さん。今後も遠野わさび公社の産地を支える役割は大きい=今月初旬、遠野市宮守町達曽部

 岩手県遠野市の特産品ワサビが収穫の最盛期を迎えている。昨年で栽培開始100年となった東北有数の産地は、長年の努力で培った品質が高評価を得る一方、担い手確保や生産拡大という課題を抱える。次の世紀を歩み始めた「わさびの里」の現場を訪ねた。(釜石支局・東野滋)

◎遠野生産開始から101年(下)継承

 遠野市のワサビ生産現場に高齢化の波が押し寄せる。農家16戸の多くは60代以上で、若い後継者は数えるほどしかいない。
 遠野わさび生産者協議会の佐藤昭悦会長(65)は「近年の需要増に応えたいが、ワサビ田を広げる余力はない」とため息をつく。

<経営基盤を強化>
 2012年度以降、生産をやめた農家のワサビ田を借り受け、栽培面積の維持に務めるのが遠野わさび公社だ。現在は市全体の1割に当たる30アールを担う。
 ワサビ苗を農家に供給してきた公社は、市の第三セクター見直しで機能強化を求められた。遊休のワサビ田活用は地域の「宝」を守ると同時に、新たな収入源にして補助金頼みの体質を改善する狙いがあった。
 農家から加工用原料の茎や細い根を買い付け、食品メーカーとの取引も始めた。14年度は補助金700万円に対し、事業収入が810万円と初めて上回った。
 市は段階的に補助金を削減する方針で、一層の収入増が必要となる。公社の菊池陽主任技術員(47)は「苗の売り先となる農家を増やすことが、経営基盤の強化に不可欠だ」と話す。
 担い手の確保を巡り、市は農業を志す都会の若者らに活路を見いだす。

<「ホップ」参考に>
 モデルは、遠野が国内有数の生産量を誇るホップ。首都圏で新規就農者を募り、6人を獲得した。高齢で引退する農家から21年度までに計約5ヘクタールの畑を借り、深刻な栽培面積の減少を食い止める。
 ホップはキリンビールが全量を買い取る。販路が確立されているのが魅力だ。遠野ホップ農協の協力の下、指導を受けられることも挑戦を後押しする。
 市農業振興課の阿部順郎課長(51)は「売り先に困らず、利益が計算できるのはワサビも同じ。ワサビ田の整備にかかる初期費用も生産を続ける中で回収できる」と説明する。
 ワサビ田の新しい適地も見つけた。同市附馬牛(つきもうし)町東禅寺の大洞地区。沢水を利用する淡水魚養殖施設でワサビを試験栽培したところ、生育は順調だった。
 「ワサビに向く水だと確認できた。後継者不足のヤマメ養殖と組み合わせた経営も可能かもしれない」。阿部さんが青写真を描く。
 試験を担当した公社は引き続き、遠野のワサビ生産を支える責務を負う。
 ここ3年ほど正職員は菊池さん1人だけで、多忙を極めた。今年11月、体制補強と後継者育成のため岩手県紫波町出身の橋本昌子さん(27)を採用した。
 橋本さんは、1年の試用期間を経て正職員になる予定だ。「今はとにかく仕事を覚えたい。細かい作業は苦にならない」と出荷前のワサビの茎の下処理などを黙々とこなす。
 1世紀の節目を越えた「わさびの里」。今後の取り組みに未来が懸かる。


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2016年12月23日金曜日


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