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<検証全農改革>「1円でも安く」供給へ

記者会見で購買事業の改革に向けた決意を語る全農の成清理事長(右)と神出元一専務=11月30日、東京都千代田区

 政府は11月29日、農業の成長産業化に向けた「農業競争力強化プログラム」をまとめた。策定作業を振り返りながら、全農による改革の現状と東北の生産現場の声を探った。(東京支社・小木曽崇、報道部・加藤健太郎)

◎東北現場の波紋(中)購買

 言葉の端々に、国の「介入」への警戒感と改革の決意が複雑に入り交じった。
 「国の(改革への)本気度を認識しないといけない。フォローアップしてもらわんでもいいくらいにしたい」
 全国農業協同組合連合会(全農)理事長、成清一臣(66)は、政府与党が「農業競争力強化プログラム」を正式決定した翌日の11月30日、都内で記者会見し、全農としての対応方針を示した。
 全農など農協グループは、4月施行の改正農協法に続き、安倍政権に再び変革を迫られた。特に厳しい目が向けられたのは、肥料や農薬など生産資材を農家に販売する「購買事業」。全農の全収益の6割強に当たる42億円余りを稼ぐ中核的な事業だ。
 全農はメーカーから資材を仕入れ、地域農協に卸す過程で手数料を得る。売り上げが多いほど利益を上げられる仕組みで、「農家のため1円でも安く仕入れるベクトルは働かない」(金丸恭文規制改革推進会議議長代理)と批判が出た。
 東北の生産現場でも不満の声が上がる。山形県庄内地方で水田800ヘクタールの大規模稲作を営む庄内こめ工房(鶴岡市)社長の斎藤一志(59)は、肥料などを農協を通さずに調達している。「(農協グループを通す)今のシステムは利益が出づらい。農協を中心としたシステムはどこか狂いが出てきている」と指摘する。
 全農も矢継ぎ早に改革姿勢を打ち出した。目玉となるのは、扱う国産肥料の銘柄の集約だ。集中購買によってメーカーの生産コストが下がる分、取引価格に反映するよう交渉する。想定するのは、「最低でも1割」(全農幹部)の価格引き下げ。過当競争で収益性が低下している肥料メーカーの再編を促す狙いもある。
 国内の肥料銘柄数は韓国の約3.5倍の約2万銘柄に上る。背景には、都道府県が作物の栽培に必要な肥料成分、使用時期を記した「施肥基準」を作成している事情もある。基準が細分化され、肥料銘柄数の増大を招いているからだ。
 9月上旬、自民党の会議に出席した全農幹部は「全農は地域農協の、農協は組合員の要望に精いっぱい応えたが、結果的に組合員のためにならなかった」と自省した。プログラム決定を受け、農林水産省とともに施肥基準や資材銘柄のスリム化に向けた作業に着手した。
 国産資材の流通の要を担う全農。由利本荘市でホルスタイン120頭を飼育する柴田輝男(65)は「牧草を包むフィルムは韓国、台湾などの海外産も使ったが耐久性がいいのは国産だ」と述べ、全農の役割に期待する。
 質の高い資材を1円でも安く供給できる構造は実現するのか。「巨大商社」の本気度が試されている。(敬称略)

[メモ]農林水産省によると、2013年の10アール当たりのコメ生産コストは、日本が13万4041円で韓国の1.85倍となっている。内訳を見ると、肥料は2.15倍、農薬は3.02倍、農業機械は5.40倍で、資機材の関連経費がコスト差につながっていることがうかがえる。


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2016年12月19日月曜日


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