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<検証全農改革>競争激化 厳しい定番化

倉庫に保管されている新米。農産物の輸出継続は容易ではない=宮城県大和町

 政府は11月29日、農業の成長産業化に向けた「農業競争力強化プログラム」をまとめた。策定作業を振り返りながら、全農による改革の現状と東北の生産現場の声を探った。(東京支社・小木曽崇、報道部・加藤健太郎)

◎東北現場の波紋(下)輸出

 海外での販売実績という点はまた一つ増えたが、線が描けない。
 福島県浜通り地方で生産されたコメの県独自品種「天のつぶ」。全国農業協同組合連合会(全農)福島県本部が11月25日、シンガポールに向けて輸出し、初めて海を渡った。東京電力福島第1原発事故の風評被害払拭(ふっしょく)の期待を背負い、約1トンが日系スーパーに並ぶ。
 全農福島は2014、15年度にもシンガポール、英国にコメを輸出したが、いずれもスポット参戦。価格設定などで苦労しており、「定番化を目指したいが、難しい」(米穀販売課)のが現状だ。
 政府与党は11月に決定した「農業競争力強化プログラム」で、全農に販売体制強化を求めた。「農業者のためになる」意識改革に向けた柱の一つが、「農産物を世界に発信する輸出支援体制の確立」だ。
 農林水産物の輸出力強化は首相安倍晋三が掲げる成長戦略の要だ。「輸出額1兆円の早期達成」。臨時国会の所信表明演説で改めてこの目標を強調し、「日本の農林水産物を世界に売り込む」と意気込んだ。
 だが、東北の生産者らの視線は冷めている。
 「計算通りにはいかない。金銭的メリットは現段階ではない」。香港の外食産業向けにコメを輸出するあさひな農協(宮城県大和町)の組合長桜井藤夫(68)は厳しい見方を示す。7年目を迎えての実感だ。
 国の補助事業を使って販路を開いた。為替変動への対応、取引先との信頼関係の構築。輸出基盤を維持するためにかけてきた労力とコストは小さくない。
 桜井は「自分たちのコメが海外で売れることが生産意欲につながる」と輸出効果を語る一方、「有望市場では既に各国の競争が激しい。何の足掛かりもなく、簡単に輸出とはなり得ない」と参入の難しさを語る。
 全農は今春、15年度に123億7000万円だった農協グループの農畜産物の輸出実績を18年度に207億円まで引き上げる目標を掲げた。農林中央金庫と共同で英国の食品卸を買収するなど、輸出基盤の強化に向けた動きが急だ。
 農林中金総合研究所(東京)によると、15年の輸出の伸びを支えたのは主に輸入原料を使った加工食品だった。基礎研究部長清水徹朗は「加工食品の原料の国産化を併せて促進するなど、輸出拡大に向けた議論は冷静着実に進めるべきだ。国の支援も欠かせない」と指摘する。
 04年から香港に豚肉を輸出している伊豆沼農産(登米市)の社長伊藤秀雄(59)は、輸出の目的意識を明確にする重要性を強調する。「輸出は農家の経営基盤を強化する手段の一つになる。数字が目的ではない」と話し、継続可能な販売戦略の構築を訴える。(敬称略)

[メモ]15年の農林水産物・食品の輸出額は前年比21.8%増の7452億円で過去最大。内訳は農産物4432億円、林産物263億円、水産物2757億円。農林中金総研によると、農産物のうち、加工食品が2221億円(50.1%)を占める。畜産品470億円、穀物など368億円、野菜・果実など350億円、その他農産物1023億円。


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2016年12月20日火曜日


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