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年明け医師ゼロ 陸前高田・広田に衝撃

国保広田診療所を年内で退く近江さん。来年1月からは田野畑村で地域医療に携わる=陸前高田市広田町

 東日本大震災で被災した陸前高田市広田町の国保広田診療所長の近江三喜男さん(68)が30日の休日当番医を最後に辞職することになり、広田地区に常勤医がいなくなる。震災前後の約11年間、住民の命と健康を守ってきたが、医療の復興を巡る市の姿勢に「主体性に欠ける」と不満を抱いた。

 今年秋、診療所の患者たちに近江さんの手紙が届いた。「このまま仕事を続けることは精神的にきわめて難しい」。初めて思いを知り、地域に衝撃が走った。
 同市出身の近江さんは東北大医学部を卒業後、心臓血管外科医の実績を重ね、国立病院機構仙台医療センター(仙台市宮城野区)の心臓血管外科部長を務め、東北大医学部臨床教授を兼任していた。2006年4月、医師が辞めた広田診療所に着任。1人で訪問診療をこなし、学校医も務めた。震災で診療所が全壊してもすぐ、避難所の小学校の保健室で医療を続けた。
 一方で市の対応に不満が募った。仮設診療所の設置は避難所閉鎖から2カ月後の11年8月。感染対策などに問題を感じて何度も市に改善を求めたが、変わらない。再建が遅れる中、同じ高台で集会施設が先に着工し「広田の医療をないがしろにしている」と落胆した。
 市によると、診療所の再建は設計変更などで遅れ、17年6月ごろの見通し。菅野利尚民生部長は「決して診療所を置き去りにしたのではない」と説明する。
 診療所の患者は1日35人前後。広田地区コミュニティ推進協議会には「なぜ引き留められなかったのか」と電話が殺到した。斉藤篤志会長(76)は「分かっていれば市に対応を要望していた」と悔やむ。
 同協議会は今月中旬、市に週5日診療の確立と情報の共有を求めた。斉藤会長は「住民側も常に医師と交流を図らなければならない」と考える。
 近江さんは来年1月から岩手県田野畑村の診療所に勤め、村に常駐する唯一の医者になる。「新たなチャレンジ。早く環境になじみ、じっくりと患者に接したい」と話す。


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2016年12月29日木曜日


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