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<ここにもレガシー>夜空に賢治の夢

ライトアップ後の未来都市銀河地球鉄道。宇宙軌道を走り抜ける機関車が浮かび上がり、幻想的な輝きを放つ
ライトアップ前の未来都市銀河地球鉄道。絵の輪郭がうっすらと見える

 遺産(レガシー)。それは先人からの贈り物であり、現代を生きる私たちから未来の人々へのメッセージだ。有形、無形を問わず内容は多岐にわたる。新たな年の始まりに、東北各県に数多くある遺産の一端を再認識してみよう。

◎2017東北から未来へ/(1)花巻市・壁画「未来都市銀河地球鉄道」

<昼間は輪郭だけ>
 夜の帳(とばり)が下りると、光をまとった蒸気機関車が飛び立つ。地球から宇宙へ。星の懸け橋を渡ってゆく。
 「未来都市銀河地球鉄道」。花巻市が1994年8月、JR花巻駅付近の市道に面した高さ約10メートル、横幅約80メートルのコンクリート擁壁に完成させた巨大壁画だ。
 特殊な蛍光塗料で描かれているため、昼間は輪郭しか見えない。夜間にブラックライトと呼ばれる紫外線光を25カ所から照射すると、12色で彩られた絵が浮かび上がる。
 中央にある地球の内側には、未来都市を思わせる高層ビルが林立する。その麓から3両の蒸気機関車が光跡を残して宇宙へ発車し、惑星の間をすり抜ける。壁面から飛び出すような躍動感と幻想的な輝きは、圧倒的な存在感だ。
 「宮沢賢治の神秘的な宇宙観を再現し、未来へ力強く向かう機関車に市の発展を重ねました」。制作を請け負った横浜市の画家山本長実さん(56)がデザインの意図を説明する。
 キャンバスとなった巨大擁壁は、駅周辺の再開発事業で土砂崩れ防止のため整備された。市は擁壁が歩行者に与えてしまう圧迫感を緩和しようと壁画のアイデアを考案した。
 花巻市出身の賢治の代表作「銀河鉄道の夜」を連想させるデザインが話題を呼び、駅周辺の街並みは94年、旧建設省の都市景観百選に選ばれた。
 壁画を維持管理する市民生活総合相談センターの高橋久雄所長(56)は「完成当時、蛍光塗料を使った作品はまだ珍しく、カップルや写真愛好家でにぎわった」と振り返る。
 近年は塗料の剥がれ落ちが目立っていたが、賢治生誕120年の昨年9月、大規模な塗り直しを実施し輝きを取り戻した。完成から22年たっても賢治の世界に浸れるスポットとして全国からファンが訪れるという。

<震災が問い直す>
 銀河鉄道の夜が支持され続ける理由を、宮沢賢治記念館(花巻市)の牛崎敏哉副館長(62)は「作中に漂う幻想性や西欧的イメージばかり評価されてきたが、東日本大震災を機に物語の本質に引かれる人が増えたため」と分析する。
 「絶望の中で『本当の幸せ』を考える主人公の姿が共感を呼び、励ましや慰めで飾らない賢治の幸福論や死生観がかえって、傷ついた被災者の心に寄り添ったのかもしれません」
 賢治は明治三陸地震(1896年)の2カ月後に生まれ、昭和三陸地震(1933年)の半年後に没した。牛崎副館長は、震災の被災地で賢治の思想が受け入れられることに不思議な因果を感じる。
 生死とは、幸福とは、発展とは−。賢治が晩年まで探し求め、震災が改めて投げ掛けた問い。その答えを見つけに行くように、こよいも汽車は闇を抜けて光の海を目指す。(盛岡総局・斎藤雄一)

[メモ]壁画はJR花巻駅から北に約350メートルで、徒歩3分。ライトアップは10月〜翌年4月が午後6〜10時、5〜9月が午後7時半〜10時。この年末年始は1月3日まで午後5時〜翌午前6時に延長されている。


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2017年01月01日日曜日


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