岩手のニュース

<3.11と今>佐藤ひろ美 古里再生旗振り役に

最後のライブで熱唱するひろ美さん=昨年12月23日、東京都江東区の豊洲PIT
震災直後、がれきに覆われた実家跡に立つひろ美さん=2011年3月26日、岩手県大槌町

 魂を込めて歌った。悲しみと生きた日々を越えて。
 「歌は、みんなに送るエール。明日が楽しくなるように。元気で生きていけるように」

◎ずっとそばに(2)歌手 佐藤ひろ美さん=岩手県大槌町出身

 昨年12月23日、東京・豊洲のライブハウス。歌手引退を決め、最後のステージに立った佐藤ひろ美さん(46)は、沸き立つ約1600人のファンに、ありったけの思いを伝えた。
 2000年にデビュー。パソコンゲームソング界の先駆けだ。04年に発売したCDシングル「Angelic Symphony」は2万5000枚超を売り上げ、ヒットした。
 テレビアニメ「おねがい☆ツインズ」(03年)の主題歌も歌い、07年には自ら芸能事務所を設立した。社長と歌手で多忙を極める中、東日本大震災が古里の岩手県大槌町を襲った。

 津波で実家が流失し、父公克さん=当時(67)=は行方不明に。発生から約2週間後、がれきに覆われた古里に立ち、その現実に言葉を失った。父は避難しようと崖をよじ登る途中、津波にのまれたらしい。
 「かわいそうで、かわいそうで」。あふれ出る感情と涙を抑えきれなかった。
 どん底の中で支えになったのは、ファンからのメッセージ。「何か力になりたい」。大槌町への募金を呼び掛けると、義援金が続々と届いた。
 「今こそ、自分が旗振り役でいなきゃ」。歌手だからこそできることを再認識した。少しずつ確信に変わる。歌に込めるパワーもパフォーマンスも、より強く明確になった。
 震災後、度々訪れる大槌町で歌い、「自分も被災者。同じ視線でできることがある」と実感した。被災した人たちを励ます作品を集めたアルバム「RiSE」を12年8月にリリース。表題曲を自ら作詞し、大槌町のシンボル・蓬莱(ほうらい)島がモデルとされる人形劇「ひょっこりひょうたん島」の主題歌も歌い、収録した。

 「表現者として、みんなが明るく生きるエネルギーを送ろう」。歌手生活16年。最後の5年余で、原点に立ち返ることができた。
 震災から6年となる新年を迎えたが、父はまだ見つからない。悲しみは変わらない。一生消えない。
 もう一度、会いたい。
 紆余(うよ)曲折を経て29歳でデビューした遅咲き。父は芸能活動に大反対した。4年後、初めてステージを見に来て「ひろ美、東京でよぐ頑張ったなあ」と、こぼした満面の笑みを今も忘れない。
 最後は大ファンになった父への感謝を今、被災した古里の人々に重ねる。歌手を引退し社長業に専念するが、被災地のために歌うことは続けたい。大槌町で音楽祭も企画したい。音楽の力で心に寄り添い、勇気づける。自分のスタイルで。
 約3時間。最後のステージに悔いはない。「幸せだったよ」。遠くで見守っているはずの父の面影の向こうに、古里が見えた。
(報道部・菊池春子)


2017年01月03日火曜日


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