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<福島ガイナックス>「負の印象」塗り替え

アニメの制作過程を再現したミュージアム。浅尾さん(中央)やアニメーターの高木さん(右)たちが言葉を交わす=福島県三春町

 「あのフクシマか。人は住めるのか」
 海外の仕事先。社名に「FUKUSHIMA」とある名刺を渡すと、身構えられる。
 「なぜ、あえて未来の見えない場所に進出したのか」。国内でも尋ねられる。

◎トモノミクス 被災地と企業[3]プロローグ(下)えがく

 福島県三春町に2015年4月開設したアニメ制作会社福島ガイナックス。社長浅尾芳宣さん(48)=福島市出身=は痛感する。人類史に刻まれる東京電力福島第1原発事故の負のイメージは、世間に刷り込まれてしまった。

 浅尾さんは人気作「新世紀エヴァンゲリオン」を送り出したガイナックス(東京)の役員だった。地方スタジオの開設を検討していた13年。原発事故で県外に避難し、帰郷を諦める若い家族が増えていると知った。
 若い世代が戻らなければ、郷土の未来は危うい。アニメは、復興の力になれないか。元の状態に戻す「復」の段階は役割を見いだせずにいた。地元を活性化させる「興」ならどうか。
 アニメを通し、福島のイメージを上書きする。楽しい話題をどんどん提供する。本業を生かし、受難の古里に会社を興した。
 三春町で廃校になった旧桜中の校舎を借り、制作スタジオを構えた。ミュージアムも併設した。
 仕事は予想以上に舞い込んだ。東邦銀行のアニメCMを皮切りに、県と連携した短編集「みらいへの手紙」では原発事故後の現状を伝えた。
 伊達政宗と祖先の活躍を描いた伊達市のPRアニメ「政宗ダテニクル」は美男子キャラをそろえた。6回開いた関連イベントには計約8000人が訪れた。海外からも反響がある。
 アニメの制作過程を再現したミュージアムには1年9カ月で5万4500人が足を運び、アニメの「聖地」になりつつある。
 既に10作品を完成させ、15本前後の受注を抱える。15年末、ガイナックスから独立、今年は単年度黒字化を見込む。

 スタッフ16人のうち14人は県内出身だ。高木祐紀さん(24)=いわき市出身=は、郡山市の職業安定所で求人を知った。入社1年半。地元で好きな仕事に携わる満足感がある。
 「負の印象はすぐに払拭(ふっしょく)できない。100年以上かかるかもしれない。でも、黙って待っていられない。アニメには垣根を越える力がある」。高木さんは会社の使命を感じている。
 古里を元気にしたい。アニメやサブカルチャーの力を借りて盛り上げたい。福島に商機はあるか。浅尾さんの答えは「イエス」。「この地ほどビジネスチャンスがある場所はない」
 腰を据え、本業と地域の共栄を考える。企業の社会的責任(CSR)が、福島の未来を描く。
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 企業の社会的責任(CSR)。21世紀、世界の企業に浸透し始めた概念だ。東日本大震災後、東北の被災地には無数の企業が足を踏み入れ、試行錯誤を重ねた。艱難(かんなん)の地へ、生活の糧を、癒やしを、希望を。企業を突き動かした衝動は何だったのだろう。あれから間もなく6年。CSRを足掛かりに、あの日に返って経済社会を展望する。見えてくる明日を、私たちは「トモノミクス」と呼ぶ。


2017年01月05日木曜日


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