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<河北新報120年>次世代へ東北像提案

 創刊120年を迎えた河北新報社は17日、東日本大震災の痛手から立ち上がり、新たな時代を切り開く決意を込めて「東北の道しるべ」を発表した。戦後日本に価値観の転換を迫った大震災を踏まえ、次世代に引き継ぎたい東北像を提案した。
 道しるべは成長重視のグローバル競争と一線を画し、定常社会の実現を目指す「『東北スタンダード』を掲げよう」など6項目で構成。2050年を想定し、未来の東北を担う子どもたちへのメッセージとした。
 津波被害と原発事故の複合災害だった大震災を、戦後日本を顧みる契機と捉えた。同時に、深刻な社会課題である人口減少にどう向き合うかを検討した。
 これらを踏まえ、必ずしも成長を前提にしない経済システムを「東北スタンダード」と名付け、人、物、財が域内を活発に循環する社会を示した。
 地域を維持するため、一人一人が「2枚目の名刺」を携えて公的役割を担う働き方を提案。大量生産、大量消費で失われた自然と人間の結び付きを回復する「通訳者」の役割を農林水産業の担い手に託している。
 低成長の時代に企業誘致だけで域内経済を潤すのは困難だ。そこで伝統技術と先端産業など多様な組み合わせによる「共創産業」の創造を提唱した。産業を支えるエネルギー政策は「自治」の発想に基づき、地元資源、地元資本、地元消費の3原則を打ち立てる。
 大震災では東北の人々の振る舞いが世界の称賛を浴びた。これに代表される東北の文化や風土に根差した固有の価値観「INAKA(いなか)」を国際社会に発信しようと呼び掛けた。
 河北新報社は大震災の翌12年1月、復興の具体的プロジェクト「東北再生への提言」(3分野11項目)を発表している。時代の大状況を踏まえた基本理念である道しるべと合わせて実現を目指していく。

<地域を人物財が循環>
 この地に生きるみんなが本物の豊かさと幸せを実感するため、東北スタンダードを掲げよう。経済のグローバル化は人々を際限のない成長競争に駆り立て、深刻な格差を生んだ。これを乗り越えるため、域内を人、物、財が循環する定常社会の実現を目指したい。

<一人一人が公的役割>
 東北で誰もが生き生きと暮らすため、2枚目の名刺を持とう。自ら課題を見つけ、一人一人が公的役割を担うことで地域社会を維持したい。地元にいなくても何らかの形で地域に参画する人々と連帯すれば、土地に縛られない新しい地域共同体を形成できる。

<若い世代に変える力>
 東北の価値ある物産を多くの人へ届けるため、自然と人間の通訳者を育てよう。農林水産業に就く若者たちに、自然との関係回復を託したい。柔軟な発想で1次産業を担う若い世代こそが、農村と都市の関係を一方通行から相互交流へと変え得る力を秘めている。

<付加価値をアピール>
 東北に自立した経済を打ち立てるため、共創産業を興そう。製造業と福祉、農業とITなど資源や産業を幅広く結び付けた内発型産業を創造し、経済の域内循環の活性化を目指す。本物主義を掲げ、東北の物産が本来有する高い付加価値を域外にアピールしたい。

<地元のために3原則>
 東北の天然資源を暮らしや産業に生かすため、エネルギー自治を確立しよう。(1)地元風土に根差す(2)地元資本が主導する(3)地元のために使う−という3原則に基づいたエネルギー運用を打ち立てたい。豊かで多様な天然資源を生かし、エネルギー源の分散立地を目指す。

<固有の価値観広める>
 東北の文化や風土を誇れる国際人となるため、INAKA(いなか)を世界へ広めよう。図らずも震災が証明した、競争より共生を重視する東北固有の価値観や生き方を内外に発信する。政治や経済の中心は東京だが、東北にもある多様な中心を世界に示したい。

◎共生へ新たなモデル創ろう

 いま、この時、母の胸に抱かれて安らぐ幼子にこのメッセージを贈る。
 あなたたちが大人になったころの東北を想像してみよう。決してぜいたくではないけれど、衣食住が足りた四海波静かな暮らしがきっとある。それは不屈の闘志で東日本大震災に立ち向かった先人の功績だった。
 大船渡市三陸町吉浜で漁師千葉豪さん(34)は今日も沖に船を出す。東京は25歳で卒業した。大津波に傷付いた年若い漁師たちを束ね、再び海との対話を始めた。「地元に誇れるものがあれば、一度は都会に出た子どもたちも必ず戻ってくる」と信じて。
 雪をかぶった山形・飯豊連峰の麓で用水路に渡した水車がコトコト回っている。63戸の集落に雇用を生み出そうと、飯豊町松原のお年寄りたちが小水力発電で野菜を育てている。
 風土と暮らし、なりわいが濃密に絡み合った東北固有のライフスタイルを次の世代に引き継ぐため、無名の営みが各地で繰り広げられている。
 あの日、災いの中にあって私たちは、大きな悲しみと小さな希望を分かち合った。避難所で肩寄せ合って寒さをしのいだ。炊き出しの列に粛々と並んだ。
 非常の時を生き抜くため、そうするのが当たり前のように出現した支え合いと分かち合い。大震災は「共生」という目指すべき東北像を、いや応なしに浮き彫りにする契機となった。
 犠牲になった尊い命を忘れまい。新しい社会モデルを創造しよう。その一助として、きょう120歳となった河北新報社は「東北の道しるべ」を編んだ。読者とともに、うまずたゆまず未来を切り開く一本道を歩んでいきたい。

夜が明ける。未来を信じて前へ進もう=仙台市地下鉄東西線の先頭車両から撮影

2017年01月17日火曜日


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