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<河北新報120年>本物の幸せ感じる未来に

八戸の南部裂織工房で打ち合わせする道男たち。東北の風土が育んだ伝統の技に発展のヒントがある
「自分たちのことは自分たちで決める」。エネルギー開発も自治の精神で地域を豊かに

◎2050年東北の物語

 やがて巣立ちの日を迎える子どもたちに、私たちは何を残せるでしょう。大人になった君たちが、本物の豊かさ、本物の幸せを心から感じられるふるさと東北でありますように。河北新報社は創刊120年を迎えた17日、そんな願いを込めて「東北の道しるべ」を編みました。六つの道しるべが導く未来の東北を、仮想小説にして届けます。

◎第1章 掛け持ちは当たり前

 「東北楽天 史上初の10連覇へ プロ野球開幕」
 河北新報1面にそんな見出しが躍った2050年4月、総合商社「富士物産」に勤務する東道男(27)は仙台支社の応接ブースで商談相手を待っていた。
 東京本社から赴任してまだ数日。道男にとって初めての東北。「東北スタンダードを学んで来い」。部長がはなむけに発した一言が、ふと脳裏に浮かぶ。
 時間ちょうどに商談相手が現れた。「五橋食品の片倉です。それから、こっちは…」。片倉幸彦(39)が「杜の都支え合い交通 登録ドライバー」と書かれた名刺を差し出した。
 片倉が暮らすニュータウンも例に漏れず高齢化が著しい。「今朝も1人、市立病院まで送って来たところなんですよ」。住民同士がマイカーを提供し合って地域の足を確保する。
 「東さんは?」。何を聞かれたのか分からず道男が戸惑っていると、片倉は合点顔で話し始めた。
 「東さん、こっちは2枚目の名刺が常識でしてね」とにやり。東北ではサラリーマンも本業のほかに地域の世話役や仕事を掛け持ちするのが当たり前なのだ。
 商談そっちのけで片倉の東北基礎講座が始まった。パート勤めの傍らNPOで高齢者の買い物を手助けする主婦。子ども食堂を運営するコメ農家。中には曜日ごとに五つの仕事を掛け持ちする若者もいる。みんな片倉の友達だという。
 学んで来いと言われた「東北スタンダード」が再び脳裏に浮かぶ道男だった。

◎第2章 伝統と先端「いいね」

 2050年盛夏。道男は一路、八戸市に車を飛ばした。イタリアの有名ブランドと新作バッグの打ち合わせがあった。
 「南部裂織(さきおり)」の機織り職人岩木康子は御年80。丁寧で妥協を許さない仕事ぶりが評価され、海外ブランドから注文が次々舞い込む。「ボンジョルノ、康子ばあ」「んだすけよ(そうですよ)」。工房では打ち合わせの真っ最中だった。
 康子の相棒、人工知能(AI)の「リードくん」が八戸とイタリアを結んで同時通訳してくれる。「取っ手は秋田の曲げわっぱでどうでしょう」。道男の提案にリードくんが「いいね」と賛同した。
 素朴でカラフルなデザインが受けて「SAKIORIブーム」が巻き起こるのは、半年後のことである。

 東北の「共創産業」に勝機ありと確信した道男。長井市に通う日々が続いていた。「白河マテリアル」が新商品を開発したらしい。
 社長の白河森太郎(56)は頑固一徹の職人肌だ。お百度を踏む道男に「うちは金もうけのためだけに仕事をしてるんじゃねえ。定常社会って知ってっか?」。取り付く島もなかった。
 「せめて新商品のヒントだけでも…」と道男も食い下がる。「うちの金型技術をベースにした福祉機器よ」。白河の一人娘で専務の野々子(26)が助け舟を出してくれた。「これ見て。材料は全部、地元調達よ」
 大手自動車メーカーの進出で東北には2000年代以降、金型や精密加工の技術が育っていた。東北各地から部材を集め、製品を域外に「輸出」する流通スタイルが確立されていた。
 ほかの製品も見せてほしいと道男は懇願したが、野々子は「これ以上は、だ、め、よ」。取引も、ひそかに芽生えた恋心も、一筋縄ではいかないのだった。

◎第3章 発電水車集落を潤す

 道男が仙台支社に赴任して間もなく1年が過ぎようとしていた。きょう3月11日は、東日本大震災から40年の節目だ。話は母から繰り返し聞かされている。
 「あの日を境に東北の人たちは、新しい生き方を懸命に探し始めたの」
 東北に来て道男も変わった。仕事の傍ら東北広域行政庁が発行する「エネルギーコーディネーター」の資格を取得した。念願の2枚目の名刺だ。
 この日、コーディネーターとして最初に手掛けてきた案件の契約締結が秋田県上小阿仁村である。里山集落が農業用水路に水車を並べ、発電事業に乗り出す。
 公民館には地元の自治会長や若者、地元銀行の担当者、隣町の食品加工会社の社長が集まっていた。
 道男が事業概要を説明する。「集落は銀行の支援で水車を設置し、食品加工会社へ優先送電します」「食品加工会社は今後、地元銀行を指定金融機関にしてください」「売電益は山林管理の業務委託料になります。若い移住者たちの合同会社に支払います」
 われながら悪くないスキームだと思った。コーディネーターは、資源、資本、消費が全て地元に根差すエネルギー3原則に基づき、三方よしで契約をまとめるのが腕の見せどころだ。
 道男の説明が終わり、いよいよ調印。東北でまた一つ、エネルギー自治が動きだした。
 「これで一安心。あとは若い連中がお山と対話しながら集落を守ってくれるべ」。自治会長が道男を見送ってくれた。

 「東北はすごいよ。東北スタンダードって本当にすごい」。帰路、道男は野々子にメールを送った。今の率直な気持ちだった。
 40年前、成長一辺倒の社会から一人一人の幸せを見詰め直す定常社会へいち早くかじを切った東北の人々。素朴で正直な「INAKA(いなか)」の価値観を、日本が、世界が、東北から学ぼうとしている。
 再び道男は野々子にメールした。「ずっと東北で暮らそうと思う」。意を決してのプロポーズだと、気付いてもらえただろうか。


2017年01月17日火曜日


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