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<東北の本棚>過ち繰り返さぬために

体感する戦争文学/新藤謙 著

 戦時下の異常な空気を知る著者が「戦争とは何か」を思索する文学案内。生存することだけが生きる目的となったような極限状況で、人間は果たして人間でいられるのか。多くの命を失わせた国家・権力の愚かさも見つめ、再び過ちを繰り返さないために何が大切なのかを考えさせる。
 1927年生まれでいわき市在住だった著者。独学で執筆活動を続けてきたが、昨年10月に亡くなり遺作となった。
 妹尾河童の「少年H」は、反骨心旺盛な少年Hを主人公として描いた自伝的小説。軍国主義化が進み、日本が負けるわけがないと信じ込む少年たちの中で、リベラルに育てられたHだけは「大和魂だけでは勝てない」と思う。思想統制が進む中で面従腹背で生きる少年の姿は、当時の世間と国家のおぞましさを浮かび上がらせる。
 五味川純平の「ノモンハン」は、軍人たちの独善的な精神主義、功名心によって1万8000もの兵が戦火に散ったことを糾弾。「何の根拠もなく、彼らは敵を甘く見て、殲滅(せんめつ)するなどと壮語する。奇怪な神経である」と五味川は書く。大岡昇平「野火」では、戦場で飢えに耐えきれず、仲間を殺して人肉を食う同胞を「神の代行者」として殺す兵の苦悩が生々しく描かれる。
 本書はほかに、石川達三「生きている兵隊」、鶴見俊輔「戦時期日本の精神史」などを紹介。国力を考えずに戦争に突き進んだ日本、自己犠牲・特攻精神を美化し、「死は鴻毛(こうもう)より軽し」とみた当時の軍部の意識に著者は怒りの目を向ける。「戦争は生きた地獄を生む。その点では人間は最下等の生物といえよう」と結ぶ。
 他の著書に「サザエさんとその時代」「国家に抗した人びと」など。彩流社03(3234)5931=1944円。


2017年01月22日日曜日


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